学校ではクラウチングスタート

□通り雨の予感
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.通り雨の予感.


「ケーキって言った」
「巻くか巻かないかの違いじゃないか」


ソファに腰かけ、目の前に出された白いお皿に乗せられているのは明らかにバニラではないだろうロールケーキ
その横には甘い匂いのココアが置いてあって
竹中先生は私の向かいに座ってコーヒーを口にしていた


「なんか色が白くないです」
「紅茶風味なんだ」
「飲めないっていいました」
「紅茶風味だから食べれるだろう?」


口を尖らせて、渋るようにフォークで差したケーキを口に運ぶ
おっ


「…」


美味しいぞこんにゃろう


「どうだい?」
「……美味しい、です」
「よかったじゃないか」
「先生は食べないんですか」
「どうして僕が」
「じゃあなんでこんなところにケーキがあるんですか」
「貰い物だよ、腐らすのは勿体無いからね」
「甘いもの、嫌いなんですか?」
「好んでは食べないね」


確かに、竹中先生の飲んでいるコーヒーは黒い
ブラックなんて飲めたものじゃない、私は普通のコーヒーすら飲めないのに
この人……………どっかで頭打ったんじゃないの?


「失礼だね」
「エスパー!?」
「口に出てるよ、押さえておきなさい」


思わず言うとおりに口を押さえると、竹中先生はぶっと噴出して笑い出してしまった
自分がしろって言ったんじゃない
とりあえずケーキに罪は無い、と黙々と食べ進める
ちらりと視線を上に上げて先生を覗いてみた
すごく優しい顔でこっちを見られていたからすぐさま視線を逸らす


「なんで…私はここでケーキを食べてるんですか」
「僕が呼んだからだよ」
「なんで竹中先生は私を呼んだんですか」
「ケーキを食べてくれる人が居なくてね」
「いっぱい、居るじゃないですか」


その時なんだかちくんと胸が痛んだのは気のせいだよ


「竹中先生が好きな人」


そういうと、先生は私から視線を逸らしてコーヒーを喉に流した
少し怖い顔
ううん、これはいつもの顔なんだと思う
昨日からしかじっくりと顔なんか見たこと無かったけど
私と、この部屋で二人きりの時は周りでは見せないような優しい顔をするから
ほんの少しだけ、いけないことをしたかも知れないと思った


「…」
「一方的に押し付けられてもね、面倒なんだよ」
「……そう、なんですか…」


私は男の人の前だけ取り繕って、女の前では淫らな格好をして化粧をしている人達が苦手
でもその人達のことを否定されて
少しだけ胸が軋んだ
好きな人達じゃないのに、そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないって
心の中で呟いた


「…」


またケーキを黙々と口に運び、空になったお皿の上にフォークを置いて
まだ口をつけていなかったココアを一気に飲み干した
カンッとテーブルにカップを置くと、はたと先生と目があった


「私の顔になにかついていますか」
「いや……」


また視線を逸らした
今の私の言葉は、どこか少し冷たかった


「あっ」


ポツポツと窓を叩く雫
次の瞬間にはザーと大きな音をたてていた


「雨…降ってきちゃった」
「傘を持ってきていないのかい」
「はい」
「送ってあげようか」


私を見る視線が冷たいと思った
いつもが異様なほど温かかったためか
とても冷たく、私の心を水浸しにしていた


「いいえ…大丈夫、です」


一度頭を下げて、鞄を胸に抱いて逃げるように部屋を出た
今日はなにも言われなかった
"また明日"って、昨日みたいに言われなかった
なんで、嫌われちゃった?
嫌なこと言っちゃったのかな
なんで私こんな事考えてるんだろ
先生なのに、只の学校の先生なのに
なんで…



end




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