捧げ文

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―夏草や 兵どもが 夢の後

平泉の古戦場を前に芭蕉が謳った句は、彼がスランプだったことを忘れさせる代物だった。その日一日は終始その余韻に浸り、珍しく弱音を吐かず曽良の断罪を受けることも無く宿まで歩いた。だが翌日にはまた句とも呼べない駄作を綴る自称俳聖に戻っていた。その余りの落差に曽良も溜め息しか出ない。

「―あむぁ〜い物が 食べたいな 芭蕉
今度はドゥ曽良君!?松尾渾身の力作なんだけど」

「紙の無駄遣いもいいとこですね。昨日みたいな句が何故詠めないんですか?そんな状態で俳聖を名乗るなんておこがましいにも程があります」

曽良君あんまりドゥ…と芭蕉は俯き拗ねるが曽良は容赦しない。芭蕉の鬱陶しさに邪魔だと言わんばかりに背中を蹴りつけた。オバマッと情けない悲鳴を上げ芭蕉は地面に突っ伏した。畦道特有の砂利が頬に痛い。知らず知らず芭蕉の眼には涙が溜まっていた。

「このヒド弟子!鬼!なんだよそんなふうに言うこと無いじゃないか!!」

「あれ以外に何と言えば良かったんです?」

的を射た発言だと思いますけど、と曽良が考える素振りを見せた。すると泣きそうだった芭蕉の瞳が怪しく光った。また妙なことでも考えついたのだろうか。
 
「こういう時は優しく笑顔で『大丈夫ですかお師匠様?根をつめるのは身体によくありません。僕が肩を揉んで差し上げます』位のことを言うんだよ!」

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