短編
□密会
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───……ピチャン、ピチャン
雨の雫が軒下にある水溜まりに落ちる音が、幸村のいる部屋に響く。
「居られるのならば、出て来て下さいな」
凜、とした声が、一人しかいないはずの部屋に響いた。すると、ガタリと音をたてて屋根裏から人がでてくる。
「………………」
出てきたのは、今や幸村等武田の敵である北条の傭兵、風の悪魔こと風魔小太郎。
何故、彼が敵である幸村の守る城、上田城にいるのか。それは、暗殺などの予測がつく。が、
「風魔殿、某はあなたがくるのを予測してわざわざ十勇士皆に長期任務に就かせたんですよ?それを知っているでしょうに……、何を遠慮しておいでか?」
「……………」
幸村は、武器を持つわけでもなく、ただ話しかけるのみ。しかしよくみると、小太郎の方も丸腰だ。
では、何故小太郎が上田城に来たのか。そして、何故幸村は武器をとらないのか。それは、本人のみぞ知る。
───閑話、休題。
「俺に、何のご用で?」
「……………」
幸村は目を細め、口を弧に描きつつそう問い掛けた。当然、小太郎から返答はない。
「やはり、返答はないですか………」
それは幸村も分かっていたようで、言葉は悲しみが含まれるが幸村自身は全く悲しんでいない。
「……………」
「そんな申し訳なさそうな顔をしないで下さいな。あなたが口を利けない事実は、周知のことでしょうに……」
幸村はそう言い放ち、コロコロと笑う。
そんな幸村の様子に、小太郎も心なしかはにかんだ気がした。