短編

□予知夢、あるいは悪夢
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これは夢、夢だ。夢なのだ。───本当か?
同じような質疑を繰り返し、目の前の人間を見る。相変わらず引きつったような笑い声をあげたそれは、視点が合っていない。
それの手には、何かの首。もはや元の形を見せていない首に見覚えがあるようで、ない。だが、それは己にとても馴染み深かった気がする。
「ヒヒッ……三成、これに見覚えがあるであろ。無いわけが無い。これはぬしを───した───の首なのだからな………ヒヒッ」
視界が黒く塗り潰される。
───それをしたのは、貴様ではなかったのか?
思考はじわじわと焼き切られ、白くなる。
───こいつは、何をいっている?
「ヒヒッ、ヒッ……」
狂ったように笑い続けたそれを見た瞬間、何かがふつと断ち切られた。


付着した血。手に残る、首をはね飛ばす感触。
そして───最期に見た、あの笑顔。
目覚めると、全身から滝のような汗が滴っていた。
───悪夢か、現実か。
その判断でさえ困難なほど混乱していた。
「そうだ───形部! 形部!!」
先ほどの夢で殺した形部。形部が裏切るなど、疑う余地さえないのは私もよく理解している。
形部は、今も生きているのか。私が殺したのか。
「なんだ、三成。朝方とはいえ、騒がしいぞ」
「形部……貴様は私を裏切らないな? 私が貴様に手をかけるような事などならないな?」
「………なんだ、いきなり。われが今までぬしを裏切ったことはないであろ?」
「そう、そう……だな」
やれやれとでも言いたげに深く溜め息を吐いた形部は、私に近付き輿からおりる。
こうして見ると、形部はやはり病に侵されているのがよくわかる。その白い包帯が少しゆるんだ。
「三成、われは何があったのかは知らぬが、話くらいなら聞いてやってもよいぞ」
「形部……」
何故だか、形部が優しい気がする。本当に形部なのか。実はこの形部は偽者で、本物の形部は───
「………われはもう寝るぞ。ただでさえ戦続きなのだ……」
「あ、ああ……」
……あの形部は幻覚だったのか?




予知夢、あるいは悪夢


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