短編

□天は二物を与えない
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捏造陰陽月日和解ルートからの家三あるいは三家でのハッピーエンドと思いきや鬱エンドっぽい何か。鬱ヶ原もぐもぐ。
官吉風味?






前田の風来坊の頭突きと説教により、斯くも殺意に満ち溢れていた天下二分の戦は幕を閉じた。
そして、二分していた国々の頂点にたっていた二人の武将は仲直りを通り越してなんと恋仲になっり、この果報というか何と言うかは事情を知る武将にとどまらず、全国の兵士や民草に広まり、ようやく平和が訪れたとみな一様に笑顔になった。
―――そう、みな。件の頂点の一人、石田三成に打倒徳川家康を焚き付け世の中みな平等な不幸を、と願っていた大谷吉継もまた、笑顔。
大谷が笑顔を浮かべるなどという、嫌な予感しかしない行動に黒田は心底戦慄いていた。何事も、ないように。無駄だろうなとどこかで思いつつ、そっと黒田は祈った。


一方、交戦中、総大将両名和解との報告を受けた大谷と本多。絆をかかげる徳川の側近である本多はともかく、復讐を望む石田の側近の大谷は内心舌打ちしたい気持ちでいっぱいだった。自身が前田を通したばっかりに。大谷は得も言われぬ怒りを覚えていた。
それを出さぬように、何かを言いたそうな本多に向き直る。
「徳川の。一時―――かはともかくとして、今は戦いを止めぬか? われもぬしも、早にあやつらのそばに行きたいであろ」
しかし、過ぎたことを悔やんでも意味はない。とっくに戦意を失わせていた本多に休戦を持ちかけると、本多は二つ返事で頷いた。相も変わらず表情の読めぬ奴よ、と大谷は思う。
「しかし……なんとまあ、気の早い奴よ」
大谷は、早々にいってしまいたいのか何か大谷が言葉を発する前にとっとと飛び去る本多に、呆れのため息が出る。やれわれも急ぐとするか、と自身も進まぬ気持ちとは裏腹のスピードで二人の元へ向かった。
「三成、和解と聞いたが……真か?」
「刑部! ああ、私が間違っていた。お二人の残された兵を徒に減らす戦をするなど、私は何を考えていたのだろうか」
「さようか。まあ、ぬしが無事ならそれで良い」
大谷は、石田らの元へ来たことを後悔した。見るに、今の石田には一欠片の怨恨も残っていない。再度焚き付けるのは無理か、と大谷は思った。そして、あたかも無二の親友の無事に安堵したかのような仮面をかぶり、聞こえぬよう舌打ちをする。
―――アレは、不幸の星は降りやるのか。
今の大谷は、その疑問でいっぱいだった。


療養のため大阪に残った大谷の元に、江戸にいる石田と徳川が恋仲になったという知らせが入ったのは、意外にも最近のことだ。というのも、その知らせを届けようとした者達が次々と不幸に見舞われたからである。
そう唯一不幸に見舞われずに知らせを届けた黒田に聞かされた大谷は興味なさそうに、さようか、と呟く。平面上は冷静だが実のところ焦りを覚えている大谷は、ますますアレが遠ざかるのを感じる。黒田が大谷の焦りを見透かしたようにざまあみろと冷たい声で呟いた。
じゃあ小生は行くぞと立ち上がった黒田を呼び止めた大谷は、そうっと口を開く。
「………われは、不幸を何よりも待ち望んでおる」
「……ああ、そうだな」
「三成に好意を抱いたのも、不幸の香がしたからなのやも知れぬ」
「そうかもな」
大谷の縋るような言葉に適当に受け答えつつ、黒田は面倒なことになったと思った。
大谷の目は虚ろになりかけている―――この目は、少し前の石田のものであった。
事実上徳川が天下人となった今、戦など起こり得ぬだろう。それは、戦によって不幸が降ると考える大谷にとっては、希望を絶たれたも同然だ。
「暗、われはどうしたら良い。復讐を遂げたら良いのか? 何に?」
混乱し、あらぬ方向を見つめる大谷に黒田は自身が考える中で最善であろうこと小さく助言する。
―――嫌なことは、みぃんな忘れちまえ。


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