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□ある日の昼下がり
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城全体が揺れたのではないかと言う程の地鳴りと轟音に、三成は眉間に皺を寄せた。書き物の最中だった為、筆が大きくずれたのだ。筆を持つ三成の指に力が籠もる。みしみしと音を立てて、くの字に曲がったそれを机に叩き付けた。立ち上がり、怒り任せに力いっぱい障子を開ければ、壊れるのではないかと言う程の音を立てて戸が壁にぶつかった。背後で微動だにせず茶を啜っていた形部は息を吐く。

「三成よ、戸が歪む…」

「家康ゥゥゥゥゥ!!」

「やれ聞いとらんな…」

「貴様、鍛錬なら他所でやれ!!此処は秀吉様の庭だぞ!!」

怒鳴り声を上げる三成の視線の先には、庭先で巨大な槍を振り下ろす忠勝と、それを受け止める家康の姿。家康は三成の方へ顔を向けた。

「え!?何だ三成?もう一度言ってくれ!!」

「何度も言わせるなぁぁ!!鍛錬なら他でやれと言ったんだぁぁぁ!!」

「すまん三成!聞こえないんだ!!」

旋回する忠勝の槍の音で三成の声は家康に届く前にかき消されてしまう。それは三成も同じだった。家康が何を言っているのか、いまいち三成にも聞き取れてはいない。ただ面に笑みを浮かべる家康に腹が立って仕方がないのだ。

「本多ぁ!!その煩い槍を下ろせ!!!!」

「だから三成!聞こえないぞ!!こっちに来てくれよ!」

「家康!本多!其処を動くな!!主従共々、まとめて首を跳ねてやる!!刑部!刀を寄越せ!!」

「あい解った」

刑部は、湯呑みを持つ手はそのままに、自らの数珠を浮かせて三成の元へと刀を運んでやると、引ったくる様に乱暴に刀を受け取った三成は庭へと駆け出した。

「何だ三成、お前も鍛錬か!よしっ一緒にやろう!!」

「死ねぇぇぇ!家康ゥゥゥ!!」

「おぉっ!凄い気合いだな!」

三成が鬼の様な形相を浮かべているにもかかわらず、家康は朗らかに笑っていた。それに引き換え、忠勝は半歩下がって槍を引いた。庭に斬撃の金属音と怒声が木霊する。







「半兵衛、先程から外が騒がしいな」

「そろそろ庭を変えようと思ってたから丁度良いよ」

太い松の木が、幹からへし折られて岩が真っ二つに割れた庭を天守閣の廻縁から眺めていた半兵衛は口元を抑えて上品に笑った。

end


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