雑記

□黒の天使(完)
1ページ/1ページ




「…アレン?」

「どうしました?ラビ。僕の顔に何かついてます?あぁ!もしかしてさっき食べたみたらしのたれでもついていました!?」

「違うよ〜アレン。きっとアレンの綺麗な顔に見惚れてたんだよ」

「少年は美人だからなぁ。仕方ない仕方ない」

「ロードはともかく。ティキ?男に美人はないんじゃないですか?」

「ははっ、悪い悪い」

……今、目の前で起きているこれはなんだ…?
あの綺麗な、いつも触ってみたいと思っていた、銀髪の少年は…何故敵と。
あのノアと…親しげに話しているのか?

ラビはまるで夢の中にいる気分だった。












アクマが街を襲っているとの情報が入ったため、この『シュカイザル』という街に来たのはミランダ、ラビ、神田、リナリー……そして。

「アレン君…っ!」

ミランダの叫んだ声に、ラビは意識を戻す。そうだ。アレンだ。アクマを倒しに来たはずのシュカイザルはもうすでに壊滅状態で、そこにいたのはノアの一族であるロード・キャメロットとティキ・ミック。そう遠く無い昔にアレンと死闘を繰り広げた筈の…そして倒した筈の…ノア。

「それにしても酷いですね。僕ら無駄手間じゃないですか」

「伯爵がね〜もぅ遊んでないで帰って来いってよー?」

「俺らは迎えに行って来いって。千年公にぱしられてんだ」

「おいてめぇら…っ!」

「ん?」

瓦礫の崩れる音と共に、刀を構えた神田がラビの前に飛び出して来た。

「俺を吹き飛ばしてお喋りか…良い度胸じゃねぇか」

「神田!駄目よ動いたら!!」

「神田君…っ血が!!」

「あ〜。ちょっと吹っ飛ばし過ぎましたね。すみませんでした、神田」

そう。

それは唐突に、いきなりの衝撃だった。現れたノアに向かって行った神田は、街の瓦礫まで吹き飛ばされたのだ。




……アレンによって。




「14番目に飲まれたか…っ馬鹿もやしが!!」

「ん〜?神田…なんか色々間違ってますよ?」

いつものように、とても綺麗に笑ったアレンは、すっ、と髪を撫でた。すると短髪だった髪はふわりと舞いながら風になびくほどの長髪へと変化した。

そして神田の前に歩み寄ってくる。

「一つ。『14番目』なんてノアはいません。僕に数字はありませんからね。でも……そうですね。言うなれば…0の数字をもつノア、でしょうかね」

「0番目…?そんなノア聞いたことないさ…!?」

「そりゃそうでしょ。0ってようするに何もないんだから」

「アレンの許可がなきゃ、アレンを『把握、理解、認識』する事は出来ない……『無』を司るノア…それがアレンだよっ♪」

「説明ありがとう。ティキ、ロード。あ、ちなみに同じ家族であるノア達には無効の力ですけど。…さて。『理解』しましたか…?神田??」

つぅ…、と神田の頬をアレンの赤黒い指がなぞる。そうされると何故か神田は身動きが取れなくなってしまった。背中に嫌な汗が伝うのが分かった。

「それと間違いがもう一つ……。










『もやし』では無いと、何度言ったら分かるんだ?」

バキィイィっっ!!!

「がはっ……っっ!!!!」

「「ユウ(神田)!!」」

「あは。ちょっと強く殴り過ぎました?綺麗な顔が歪んじゃって…可哀想」

ふふっ、と。微笑む顔はやはり天使のようだった。しかし、アレンを睨んだ神田の目に写ったのは――――――――


「聖痕…っ!?」

「あぁ。出てきました?『痛く』ないから気付きませんでした」

「少年は楽で良いね〜。たしかスキン・ボリックは痛くてもがいたって聞いたぜ?」

「僕の場合、覚醒では無いですから。単純に隠してただけです」

「まぁアレンはどっちにしても『痛く』無いだろうけどね〜♪」

『無』を司る0番の使徒であるアレン。痛覚等、人の感じる事の出来る感覚がまったく無かった。

「今まで大変だったんですよ?人の苦しみを見て、この傷だと悲鳴はこのくらいかなぁ…とか、色々勉強して」

だから、痛いのを仲間に隠そうとやせ我慢をする性格にしたんですけどね。ほら、楽だし。

淡々と話をするアレン。聖痕がある以外は、いつもの『あの』アレンだ。

「少年〜?伯爵んとこに挨拶行くぜ〜?」

「早く帰ろうよ〜♪」

「あぁ、やっぱり遊び過ぎましたかね。でわ皆さん。さよなら」

掴んでいた神田の団服を離すと、ふわりと浮かんでティキとロードの位置まで上がる。それを合図にロードはハート型の可愛らしい扉を出した。

ティキ、ロードが扉に入り、消えて行く。

そして――――――



「アレン!!」

「アレン君!!」

「……さようなら。皆さんに神の御加護がありますように」

すっ…と。アレンが扉をくぐると同時に扉が消える。

もう、あの白い天使には会えないのだと、ラビは意外なほど冷静に思う。リナリーとミランダは泣き崩れ、神田は血が滴る程に強く拳を握りしめている。

「アレン…っ」

ラビはその場に崩れ落ちるように伏せると、静かに泣いた。今までのアレンとの生活は全て偽りだった。それは誰しもが、認めたく無い事実。








END





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ