雑記

□必然・弐(完)
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「・・・・・・ふぅ」

<疲れた>なんて、自分らしくもないと雲雀は思った。


沢田綱吉と出会ってから、色々な事があった。こっくりさんに取り憑かれた女生徒を救うだの、実はそのものが妖の類だっただの。座敷童に気に入られたり、雨女童に嫌われたり。

しかも、当初の願いである<妖を見えなくする>というものはいっこうに叶えられる気配が無い。

『恭弥君が妖を見ちゃうのは理由があるからなんですけど、すっっっっごい深いんですよ!根が!!』

だから対価も多大なものになるんです!!と、あどけない少女にみえる青年は言っていた。

「恭弥君ーーーお腹すいたー」

「「すいたー!!」」

今日は餃子だから、老酒と一緒か、紹興酒でも。と、雲雀は煩い後ろを無視して夕餉の準備を進める。雲雀は元々料理が上手い。それこそプロ顔負けの腕前だ。それをまるで最初から知っていたかのように雇い主は雲雀に御飯をねだってきた。

良く分からないものが詰まる倉庫や家の掃除、買い物、そして料理。たまに妖払い的な事。最近の雲雀は多忙を極めていた。しかし、苛々したり、憤慨したりなどは一切なかった。それは人間嫌いな雲雀にとって珍しいことだ。

「うわぁ!!美味しそう!!」

「主様餃子好きー!」

「お酒も好きー!!」

「・・・黙って食べな」

それはきっと、相手が沢田だったからだろう。

見かけはたおやかな美麗の少女の風貌だが、年は雲雀よりも上。しかし悪霊や質の悪い妖を前にしたときの沢田は凜とした王者のような風格を持っていた。

「んーー!!美味しーーー!!」

「風呂はたいてある。食事が終わったら入っちゃってよ」

「はーい」

今は完璧に子供子供している沢田。美味しそうに餃子を食べながらお酒を飲んでいる沢田を見て、自分でも分からぬままに雲雀の口角は軽く上がっていた。






















「一年、ですねー」

「僕が君にこき使われ始めてから」

「そうそう」

風が大きな窓から入ってくる。涼しい、秋の始まりの風。

「・・・だから」

「・・・?なに」

「もう大丈夫です」

「え」

今まで寝ていた大きなソファから、沢田が立ち上がる。鳳凰の刺繍の施された着物が、風に撫でられ揺れ動く。

「・・・もう、バイトをしなくて良いってこと」

「・・・・・・ごめんなさい」

「それは何にたいしての謝罪だい?本当は妖を見れなくするなんて出来ない・・・とか?」

雲雀の言葉にふるふると頭をふる沢田。そして、両手を前に伸ばし、何かの印を指と指とで結ぶ。

「マル、モロ」

・・・・・・からっ・・・

それまで空いていた窓が静かに閉まる。そしていつの間にか、雲雀の両隣にマルとモロが立っていた。

「こんな・・・いきなりやるの?」

「時期が今しか無いんです。・・・先程謝ったのは、貴方が妖に付き纏われていたのが・・・・・・俺のせいだったから、です」

「どういう事」

話ながら、沢田は次々と印を変えていく。そして、ふわりと暖かな空気が雲雀を包むと、マルとモロが柔らかな光りに変わり、消えた。

「っ・・・」

「俺と恭弥君の縁は此世からでは無い・・・・・・ずっと、昔から続いてるんです」

「・・・・・・前世でも、知り合いだった、とでも言いたいの」

「前世でも、その前でも」

くっ、と。沢田が両手を上にあげるのを合図に、雲雀の身体が宙に浮く。

「俺は貴方と俺の縁を切るために、貴方をここに呼んだんです。そのためだけにこの店を立てた」

「・・・っ沢田」

「いつの世も、貴方は俺の大切な人でした。でも、どの世でも必ず・・・貴方は俺を守って死んでしまっていた・・・」

雲雀は息を飲んだ。

白い陶磁のような沢田の頬を、宝石のような涙が伝っていたからだ。

「俺は元々強い力を持っていました。けど、それを理解する前に願ってしまったんです。ずっと、一緒にいたいと」 

そして、それは呪いのように雲雀を縛り付けてしまった。どの世に生まれても、必ず自分の元に来る《雲雀》

そして、必ず自分を守るために死んでいく。

自分はこの力のせいで、彼の人達が死んでいく様を全て覚えていた。何度も運命を変えようとしたが、駄目だった。

元は自分の願ったため。しかしその呪いを解くためには力が足りなかったのだ。

「でも、もう大丈夫です。今日この日は俺の力が1番に増す日。そして貴方が俺に払った《時間》を俺の力に変えれば・・・・・・貴方の願いは、叶う」

「僕の願いは妖が見えなくなるように、だ。君との縁を切るのと関係はないだろう!」

「貴方が妖を見てしまうのは、俺と繋がっているからです。縁が切れれば、俺の事も、妖の事も忘れて・・・・・・一生、見ることはないでしょう」


















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