雑記

□蜉蝣(完)
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「そういえば、これ」

「?なんですか?これ・・・」

雲雀が取り出したのは、小さな箱。螺鈿細工がきらきらと光っていて、とても綺麗な箱だ。

「前に見てみたいって言ってただろう?親戚がこれの研究をしててね。送ってもらったんだ」

雲雀はそっと、その箱を開けた。

「・・・・・・あ!これ!!」

「思い出した?」

「これ、琥珀ですよね!?木の樹液が固まってってやつ!!うわぁ綺麗!!」

箱の螺鈿細工に負けないくらい輝いている、金色の琥珀。前に病室のテレビで見た琥珀を、綱吉が雲雀に話していた。

『これくらいのとか、こーんな大きいのとか!中に虫が入ってたりするんですって』

『そうだね。それに爬虫類が入ってるものもあるみたいだよ』

『へぇー!すごいですね!!一度見てみたいです!!』

そういってはしゃぐ姿を見て、口では言わないが、綱吉こそ琥珀の様に輝く宝石みたいだと雲雀は思った。

でも、琥珀の様に何万年も生きる訳では無い。それどころか、綱吉は明日か、もしかしたら今日にでも死んでしまうかもしれない。雲雀はなるべく考えないようにしていたが、琥珀をもってはしゃぐ綱吉を見ると、胸が締め付けられるようだった。










「移植もね、考えたのだけど・・・つーくんの身体じゃあ、手術に耐えられないって言われてね・・・」

「・・・・・・どうにも、ならないの」

「どうにかなるならなんでもするわ。そのために家光さん・・・・・・つーくんのお父さんは世界を飛び回ってるの。何か方法が無いかって・・・・・・。まだ会ったこと無いわよね?雲雀君は」

「残念だけど、一回見たよ。伸びきった髭で綱吉のことほお擦りしてた」


ーーーー・・・


『つぅーなぁーーーー!!!!』

『ちょ、痛いって!!父さん!』

『また可愛くなったんじゃないか!?流石は奈々と俺の子だ!!』

『可愛いなんて言われても嬉しくないって』

困ったような。それでも嬉しい顔をしていた綱吉。たまにしか会えない父親が、自分の為に世界を飛び回っている事は、綱吉も知っている。

余命が僅かな息子。そのためとは言っても、長い間離れるのは父親も不安だろう。・・・・・・死に目に会えないかも、しれない。だが、そんな不安を抱えているのも隠して、家光はその日、ずっと綱吉の側で笑っていた。雲雀も病室まで来たが、邪魔をしてはいけないかと、雲雀らしくもなく身を引いたのだ。


「家光さんも、私も。つーくんが死ぬなんて微塵も思ってはいないわ。だってまだ・・・・・・楽しい事も、嬉しい事も・・・・・・何もしてあげてない・・・」

段々と小さくなる声に、雲雀も俯く。しかし、そんな事は雲雀も思っている。

死なない。死なせない。死なせたくない!

ベッドの上にいるであろう、綱吉が動く気配がした。きっと目を覚ましたのだろう。雲雀は病室の外においてあるソファから立ち上がった。そして奈々の肩にそっと手を触れる。

「綱吉は、貴女達の元に生まれて来て良かったと思う。それはきっと、綱吉も思っている事だ」

「・・・・・・雲雀君・・・」

「綱吉があんなに笑ってるんだ。僕達が笑ってないで、どうする」

「・・・そうね。・・・・・・ふふ、ありがとう」

”笑う”

それは、綱吉が教えてくれたこと。

太陽のような笑顔をいつでも向けてくれた。そして自分も、笑える。

「雲雀さーん?外にいるんですか?」

「ああ、奈々と話をね」





雲雀も奈々も、本当に思っていなかった。

綱吉が死ぬなんて。






















この日の夜。
綱吉の容態は急変。

家光にも連絡が入り、緊急治療室の前には家光、奈々。そして雲雀がいた。










これが、一週間前の事だった。














 

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