ONE PIECE/左

□愛しいアナタに鮮明な愛を
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扉を開くのは、容易い。
たっぷりと潮を含む空気に嬲られ、じわじわと錆び始めたノブに手をかける。
ゆっくりと、回転させる。
それだけで、事足りる。

随分と簡単だ。
その、余りに簡単で単純な所作に、何故か笑いが込み上げた。
といって、楽しさ故の笑いなどではなく、いやに心中がざわつく、なんとも収まりの悪い笑いだ。
だが今、不用意に笑いを漏らし、己の存在を中のルフィに知らせるわけにはいかない。
それでは、おもしろくない。
ぎりりと奥歯を噛締め、込み上げる笑いに耐える。感情を落ち着かせるように、酒瓶を肩に乗せつつトントンと調子をとる。
詰めた息を、吐いた。
 
───誘ったのは、てめェだよなァ?ルフィ。
 
言訳ともつかぬ台詞を、脳裏に描く。落ち着かないゾロの皮膚は、湿気にまみれた浴室に入るまでもなく、じっとりと濡れている。
 
浴室へと通ずる扉の前にて、───未だノブを握りこんだまま、ゾロは全裸で佇んでいた。
ただし、黒のバンダナは左腕に巻いたままだ。
 
と、一種狂気めいた今の己に全くそぐわない、なんとも奇妙なメロディーを耳にした。
どうも、ルフィの鼻歌らしい。
扉越しに聞える余りに調子っぱずれなルフィの鼻歌に、再びゾロの頬は緩む。
いかにも、楽しげた。
だが、いつもはただ単純に笑いへと誘われるルフィの『音』も、今は己の欲を刺激する要因でしかない。

ルフィの様子を肴に、ぐいと酒をあおった。
度数の高い酒が、瞬時に喉を焼く。勢い良く流し込んだ為に顎に伝った酒は、そのままゾロの胸を伝い、既に腹につく程反り返る自身までも、焼いた。
その刺激に、思わず己が唇を噛締める。
途端、口中に鉄の味が広がった。
噛締めた唇に傷を作ったのだと、即座に自覚した。
伝い始める己の血液に、舌を這わす。
甘ェ───、そう思った。

どくりと、腰が震える。

もう限界だ。
それでなくとも、先刻よりゾロのそれは痛い程張り詰めている。
その腰の震えに応えるように、誘われるように、ゾロは扉を開け放った。

いとも、簡単に。
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