ONE PIECE/お題・小説

□同じ月を見てる/左
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side:左



「イイ!良いね〜〜デッケェ月だっ!とんでもなく丸いぞっっ丸いーっ」

「…相も変わらず…うるっさいわねぇアンタ。そんなんで見張りなんか出来てるわけ?」

「ぅおっ!?よ〜〜ナミ〜、ほら見ろっ月だっ!わはは、デッケーっ」

「…聞きなさいよ、人の話…。―――ぁ、ホントだ…綺麗…」

梯子を登って見張り台に上がると、縁を掴んで月を讃えるルフィに派手に迎えられる。
ナミの言葉を無視して月だ月だと嬉しげに喚くルフィにぼやきながらも、ナミはルフィに指差された月を見上げる。

なるほど、確かに。

先刻甲板で一人見上げていた時よりも、今の月はやけにナミの目に綺麗に映る。
呑まれたように見つめながら、ルフィの後ろの縁に背を預けると、ナミはそのままペタリと座り込んだ。

「んん〜?何座ってんだ?ナミ。こっちのが近いじゃねぇか、来い!」

座り込むナミに気付くと、振り返ったルフィがチョイチョイと手招く。
その仕草がいつも以上に子供っぽく、ナミは喉奥で笑いながら首を振った。

「月は、…こうやって座って見上げた方が、キレ…ううん、スッゴいのよ?」

無意識に。
ナミは綺麗だと言うよりも、ルフィの口調を真似て月を形容した。

ナミの言葉に目を瞬かせ、案の定ルフィは「そっかそっか」と呟きながら、ペタペタと草履を鳴らしてナミの隣に座り込む。

「おぉ〜〜デッケェ!ますますデッケェなぁ」

どうやら、この位置からの眺めはルフィの気に入ったらしい。
胡座を掻いて、ナミに倣うように月を見上げながら、同意を求めるようにナミに笑いかける。
でしょ?というように片眉上げて、ナミもルフィに笑いかける。
そのまま、二人で暫く月を見上げた。

ナミは時折ルフィを盗み見る。
が、ルフィは珍妙な鼻歌を歌いながら月ばかり見ている。

なんとなく、だ。
なんとなく、今夜なら日頃抱えたルフィへの想いを伝えてもいいかもしれない。

月明かりと、珍妙だが耳に心地良いルフィの鼻歌。
それに誘われるように、ナミは傍らのルフィの肩へと、自分のこめかみをコテ、と預けた。

瞬間、ルフィが自分の頭に視線を向けたのを感じる。
ナミも視線だけルフィに向け、「何よ?」と呟いた。
シシシっという笑い声が聞こえる。

「――何でもねェ」

いつもと変わらないルフィがそこにいた。
そのまま、ルフィはまた月に視線戻すと、キュッと目を細めて眺める。
その、余りに普段と変わらない様を見せつけられ、ナミはついに小さく吹き出してしまった。
預けていた頭を戻し、両手振り上げて一度大きく伸びをする。

「あ〜ぁ!調子狂ぅなっもぅっ!アンタねぇ…普通、アタシみたいな極上の女が隣に寄り添ったら、肩の一つでも抱くもんでしょ!?それから見つめ合ってキスして、めくるめくセックスになだれ込むってのがセオリーじゃない!?」

笑いを含ませた声で、ナミは月を仰ぎながら言う。

「まぁ…ガキのアンタに大人のムードを悟れっつー事態、無理があったかもしれないけど?…あ!つーかアンタ!もしかしてまだチェリーボーイだったりして!あり得そうよねぇ…うんうん、だってアンタの欲しがる肉は、まんまの『肉』だもんね?それにしたってさぁ…っ…」

言いながら、尚も笑いながら傍らのルフィに顔を向けた時だ。
先刻とは打って変わったような、真摯とさえ呼べるルフィの眼差しとまともにぶつかった。

ナミは言葉に詰まる。
殊更饒舌だった、自分を自覚する。

何よ?とのいつものセリフも、喉の奥に引っ込んで出て来ない。
それほどまでに、――真摯な瞳だった。
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