お話

□赤き黒き羽根(旧式)
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〜開幕〜
広い世界に、青く輝く海に囲まれた緑の溢れる大陸があった。緑に溢れ、他の大陸では絶滅した希少な動物も元気な姿で悠々と暮らしていた。豊かで平和な国を築き、誰もが笑顔でくらせる多種族が並存した大地だった。まるで地上の楽園とまでうたわれたこの大陸サークル≠フ平和は100年前に突然として終わりを告げた。
 古の魔人アルミリアの出現。呪われし彼女の終焉の宣告によって、緑なす大地はことごとく腐敗し、澄み渡る海は近づくさえできない猛毒と変えられた。争いを知らぬ人々は困惑し、腐敗の大地で多くの命が失われた。多くの種族が滅び、やがて生き残ったのは人間と死の大陸にも適応する力のある限られた種族だけとなった。
 失われた多くの生命のかわりに、腐敗し、大気の汚染された大地に現れたのは魔人アルミリアの放たれた魔物たちだった。それらは大陸を闊歩し、人々の生活を脅かす存在となる。
 サークル大陸の最後の王、イザナ二世は滅亡の危機に瀕した人々を統括し、汚染の少ない聖光の森の地下に避難させた。魔物に怯えながらも人々は力を合わせて地上に畑を作り、つつましく日々を送った。その森が唯一緑を残せるのは、古代より神々のゆかりある聖地の一つであった為だろう。イザナ二世は学者や忠臣らとともに研究をすすめ、ついには魔人の力を魔導という形で逆に利用する発見に至った。それまで身を守る為の剣や槍や銃に加え、魔導≠ニいう強力な武器を手に入れることとなる。それが魔人の放った力の欠片であったのは何とも皮肉な事だった。
 地上の楽園が失われた日から十七年、腐敗の大陸を支配していた魔人アルミリアは聖なる神々の力を受け継ぐ男女によって封印された。しかし、封じられる際に、魔人アルミリアは呪いの言葉を残した。
  【みらいえいごう未来永劫 我が魔のけんぞく眷属の絶えることはないであろう】と。
 その日を境に、異形な魔物たちは種類を増やし、数を増やし、人々の更なるきょうい脅威へとなった。それが大地の汚染がかんわ緩和された代償であった。
 さらに3年後、汚染の緩和した大陸は生命の息吹きを取り戻しつつあったが、地上には魔物なる異形が溢れていた。人々の希望であったイザナも世を去り、強力な統率者を失った聖光の森に隠れ住む者達はやがて、些細ないさかいを元に種族別に散り散りになって行く。残ったのは最もイザナを崇拝し、意志を尊重していた数種族であり、彼らはより一層団結して魔物退治に乗り出すことを計画する。その先頭に立つのが後に英雄と呼ばれたジスカーという名の勇ましい若者であった。
 ジスカーは聖光の森を去って行った種族を説得し、共に魔物と戦う約束を得た。また、聖光の森以外で生き延びた人間や亜人らの多種族を発見することも出来、それらの協力も得られて、魔物討伐の計画はいよいよ実行の段階を迎えた。
 長い年月、団結した戦力は日々戦いにあけくれた。まずは聖光の森の近場からだんだんと魔物を追い払い、魔物の少なくなった所に戦う術を持たない老人や子供らを守れる白壁の要塞が建設される。後にそれは強力な魔導に守られたコロニー≠ニ呼ばれるようになる。人が生きられる最低限に魔物を討伐できた頃、大陸には10のコロニーが出来、英雄ジスカーの髪には白く輝くものも混じっていたという。
 こうして、混乱の時代を二人の異彩を放つ統率者が、自ら先頭に立って走りぬけた。
 サークル最後の王であったイザナ二世は王族であることにこだわらず、人々と同じように生きた。何時も人々の安全と魔物への対策を考え、学者に混じっては医療の研究をし、多くの知識を吸収した。そして魔導≠ニいう未知で危険な力を発見しても人任せにせず、自分を危険にさらしながらの実験を繰り返し、魔導≠フ原理と操作法が解明されるまでは決して他言することはなかった。だからこそ多くの人心を掴み、多くの支持をうけ、その期待もまた裏切らなかった。最も混迷していた時代のまさに希望であった人物だ。
 ジスカーはイザナ王を失って、散り散りになっていく仲間達をやり切れない気持ちで見送っていた。バラバラで生きて行くには、今の世は厳しすぎると若者心に思っていた。誰も立ちあがらないから、彼が立ちあがった。
多くの人の心を動かし、脅威の魔物へと立ち向かった。安心して暮らせる白壁の要塞もたくさん作った。自分たちで未知を切り開くきっかけとなった。一段落ついたとき、彼はふと聖光の森にあるイザナの墓所を思い出した。今こそイザナに報告をすべきなのだと思った。イザナの墓の前で、ジスカーは人々の安全を確保したと胸を張って言えた。その後、ずっと大切に保管されていたイザナの部屋にたちよった。そして、信じられないものをみつけるのだった。
 そこには人々を守る要塞の隙のない設計図や、ありとあらゆる予想される問題、その妥結策。そして魔物の排除について書かれたおびただしい数の木板や書類が見つかったのだ。イザナ王は自分の死後、聖光の森に集まった多種族が決別することを予想していたのだ。
――その信じられないおびただ夥しい計画書が日の目をみなかったのは、イザナの部屋をそのまま残して欲しいという、そこは聖域なのだという多くの人々の想いからだった。誰もおか侵さず触れることなく、イザナが死んだ当初のままの形で保管されていたのだから――
 そして、いずれは森を離れ、地上で生活する為の計画もしていた。つまり、ジスカーが今までしてきたことと同じような事をイザナ王は生前すでに予想していたのだ。それを知って、ジスカーは感涙したという。まさか自分と同じ、いや、自分が敬愛するイザナと同じ考えを持っていたとは、なんとも嬉しいことではないか、と。それと同時に心からの敬服もした。やはり賢王イザナ二世をおいて王者は他になし。彼こそが王の中の王であったと。
 そうしてジスカーは彼を新たなる王へと支持する人々の声援のなかで、王位にはつかないと宣言した。しかし、それでも自分が皆の役に立つのなら戦士としてこの大陸を守る者となろう、そう言ったそうだ。
この時から、サークル大陸は王権から将軍制度となった。
 イザナが未来を思う(つなげる)希望なら、ジスカーはまさにそれを実行し、切り開いた英雄だった。だが、人格者で理想な統率者に3人目はなかった。
 10のコロニーの初代将軍ジスカーが亡くなり、新たな将軍としてジスカーの信任厚いガレイ中将が任命された。誰もがジスカーのような人物だと思っていた。しかし、裏切りは現実の行動を持って返された。
 ガレイ将軍は支配欲が並々ではなかった。彼は今までに無かった税金制度を作り、払えない者は危険なコロニー外に追い出すようになった。そして、コロニー内に住む人々を階級に分け、厳しい制度を作った。
 名将軍といわれたジスカーの死後に、好き勝手にコロニーを扱うガレイ将軍に対してコロニー内外に問わず、多かれ少なかれ快く思わない者はいた。まして、高税金を払えないが為にコロニー外に追放された者達が集まってむほん謀反を企てる事もいなめないことであろう。そんな者達は反乱軍と呼ばれた。独自のルートでコロニー内にいる少数の反乱者と連絡を取り、ちみつ緻密に計画を練り上げて、足りない戦力をまかなうのだ。
 そうして、地上の楽園が永遠に失われたと思われる100年目になって、人々は魔物とではなく、かつて共に魔物に立ち向かった者達と争うこととなる。点在するコロニーを拠点とするガレイの正規軍と、まだ少し汚染の残る大陸全土を拠点とする反乱軍が、正規軍の有利の状況下で交戦を続ける。
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