Pちゃんの部屋

□昼ドラ的な奴ら
1ページ/3ページ


昼ドラ的な奴ら

どうしてこんなことになったのか…いや私には落ち度はない。落ち度はないはずなのに、なぜか私は心の底から警戒する男に壁へと追い詰められていた。


魔界に来て数年、私は身も心も捧げた男性・ゼイノンさんと結婚した。突然のことでよく把握できていなかったけど、自分の想いが実ったのはとても嬉しいことだった。だけど結婚生活は平和のようで平和じゃない。だってあの魅了光線(?)を四方八方に振りまくような人が旦那様だから、周りの女性は誘惑されっぱなし。いや、それはまだいい、仕方ないこと。一番の問題は私にダイレクト且つ毎日のように魅了光線(?)が直撃することだ。寝ても覚めても心臓が持たない。あの妖艶な顔が優しく微笑む度、しなやかな腕が抱きしめてくる度、低く艶めいた声に甘く囁かれる度、私の心臓は破裂しそうになる。もしかしてゼイノンさんは私を殺そうとしているんじゃないかとたまに思う。


それでも充実した生活だった。相変わらず魅了光線にはまったく慣れないけど。愛する人に愛され、その人の役に立てる。私にとっては最高の生活だった……なのに。


「何を考えている?」
さっきから私の逃げ場を封じ、見下すような目線をした抹殺眼孔男を睨む。
「何って…アンタのことじゃないのは確かよ」
「……なるほど」
なにがなるほどだ。というかいい加減解放してほしい。
この男・ハーディットはたまにこの屋敷に来ていた。ゼイノンさんに用があったのか全く分からなかったけど、すれ違うことはよくあった。挨拶はするも会話は無し。
いつもはそれで終わっていた。なのに今回だけはすれ違い様さらうように手を引かれ、壁に押しつけられ、逃げ場を封じるよう体の左右に手を置かれ、片足を私の右足の横につけてきた。
これは痴漢行為と思っていいのか…よし、はり倒そう!


そう心に誓ったとき、不意にハーディットの顔が近付いてきた。
「なっ…!寄らないで!ぶん殴られたい?!」
「相変わらず凶暴な女だな…あの男の女になって少しは丸くなったと思ったが、変わらない…」
ハーディットはそう言いながらもより顔を近付けてくる。なんのつもりだろう、嫌がらせ?新手の嫌がらせ?
ゼイノンさんとは系統が違うがこいつもかなりの美男子だ。でもこの顔を見ていると頬を染めるどころか冷や汗が出てくる。たぶん何かされるという危険信号が出ているんだろう。


あっ、なんか腰に手が回されている…頭突きしてもいいかな?
「結婚生活は楽しいか?」
「はぁ?」
いきなりの問いかけに、頭突きの準備をしていた私な間抜けな声が出た。こいつからこんな質問がでるなんて。他人のことなぞ興味なし、自分のしたいことを邪魔しなければどうでもいいと言う考えの男だ。まさか私の結婚について聞いてくるなんて…。
「いきなり、なに?」
「いや…毎日同じ男の相手は楽しいのかと思ってな」
「………」
えっと…これセクハラ?下世話なこと聞いてる?ハーディットが?暴言は吐いても品のないことは言わなかった男だ、どういう意味が捉えられない。
「……あー…ハーディット?」
「いくらあの男相手でも数年もすればマンネリにもなるだろうからな」
ああ、これセクハラだ。セクシャルなハラスメントだ……よし、鳩尾にたたき込んでやろう。
右手をよく握り込み、鳩尾に向けて拳を放った。

が、その手は軽く捕まれ、甲にキスを落とされる。自分の体が驚きで震え上がった。
「なにして…っ!」
「愛人は欲しくないか?」
怒鳴り込んでやろうと大声を上げかけたが言葉を失った。今なんて言った?アイジン?藍尋?なにそれ、新種の花?
「いくら女の扱いが上手な男を旦那にしてもいずれ飽きる、別に男を作って違いを楽しんでみないか?」
この男が絶対に言わないだろう言葉だったからうまく変換出来なかった。愛人、愛人ね。あの結婚していても他にイチャイチャした関係を築く……。
「って、ハァアァァッ!??」
「おい!いきなりバカでかい声を出すな!騒々しい!」
「いやだって、アンタ今なんてっ!?」
そりゃ驚くに決まっている。こいつは私にとってはとんでもないことを聞いてきたんだから。結婚したら他の男に目を向けない、一途に結婚相手に尽くせって教えられてきた(オリエのお母さんにね)。
「そんなのいらない、私には必要ないわ」
「そう言うな、俺が直々に愛人になってやると言っているんだ。貴重なことだ」
「…………」


あれ?私耳おかしくなったかな?今ハーディットからよく分からないことが。
「あの男とはまた違うやり方で楽しませてやる、どうだ悪い話じゃないだろう?」
……いや、もうこれ幻聴でもなんでもないや。完全に愛人になりますよって言ってるよ。
理解した私は呆れたような顔をした。
「アンタ、愛人願望あったんだ」
愛人になるなんて、私をパトロンと考えているのか。お門違いもいいところだ、眉間に皺を大量生産する男に金を払う趣味はない。
「言っとくけど私お金を無駄にする気はないから。他当たってくれる?」
「誰が金目当てと言った、この安直ベタ娘。貴様の男になってやってもいいと俺は言っているんだ」
「金じゃないって…なんでよ?」
より一層訳が分からない、利益のないことはしたがらない男なのに。
首を捻る私にハーディットは口端をつり上げた…前々から思っていたけど本当に笑い顔が邪悪な男だ。なんか黒いモノしょっているように見える。
「愛人を持つのは貴婦人のたしなみだろう?」
そう言いながらこの邪悪笑い腹黒男は私を胸に押しつけ、腰に回した手に力を入れ、新たに加えたもう一本の手を背に回すと抱きしめ始めた。
ちょっと待って、これってさセクハラ云々言ってる場合じゃない?もしかして貞操的にピンチ?
「ハ…ハーディット、さん?あの…これは…」
うまく頭が回らないから口も回らない。端から見れば抱き合っているカップル。こんな姿を見られたら、ていうかここエレーンさんの屋敷だ!見られちゃマズいとかそんなレベルじゃすまされない!だって私、ゼイノンさんの奥さんだよね?場合によっちゃ死の行為じゃね?
「……あんなそこらの女をひっかけまくる男よりも大切にしてやる、他の女に目移りもしないぞ」
そう甘い言葉を言いながら、目移りしないという男は私に目移りを勧めてくる。混乱する頭でどうしていいか全く分からない。不意にハーディットの唇が近付いてきたような気がした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ