夢の中へ

□小ネタ
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1例えばこんな運命的な出会い

「じゃぁいってくるね」
「収穫楽しみにしてて!」
「サトリいってきますー!」
「いってきます!」

「みんな行ってらっしゃいー。ゴミに潰されないようにするんだぞ!」

「「「「サトリじゃあるまいし大丈夫だよ!!」」」」

・・・それもそうですね。
ゴミ山に潰されて死に掛けたのなんて、いくらこの世界でもそうそういないだろう。
自慢できないのが惜しいくらいだ。

さて、と。
お子様たちは元気にゴミ山にお出掛けしたし、家事もひと段落ついたし、
ダキちゃんはお休み中だし。
ちょっくら散歩に出てくるかな。

思えば流星街に来てから結構経つのに、
俺の行動範囲ときたら家の周辺と近くのゴミ山程度までだった。
ゲームで言えば行動力のマスが極端に少ない鈍足キャラのようだ。
これでも運動神経は悪くないと自負している俺としては、
そんな汚名は返上しようと思うわけです。


クロロ達と住んでる家は、元はきちんとした町だったのだろう廃墟の集合地の一角にある。
俺たちは便宜上ここを廃墟地とよんでいる。(そのまんま)
ここも流星街には入るが、流星街全体がこんな廃墟ばかりというわけじゃないのはクロロ達から聞いている。

そういえば最初の頃、椅子があるのに床に転がされて
訳のわからない登録をされた場所は中心街的な所にあったらしい。
最もあのときはウボォーさんの存在感に動揺して、
周囲を見回す心の余裕なんてなかったから覚えちゃいないけど。
そして今、俺が目的もなくぶらぶら向かっているのは、
むしろ中心街の反対側だったりする。

だって、こないだガスマスクつけた怪しすぎる男達をぼこった手前、
中心街に近寄る勇気はないんだもん!
せめてほとぼりが冷めてから……冷めるよね?
捨て台詞も他の言葉も、不気味なほど吐かなかったからなんか不安なんですけど。

それにしてもどこまで行っても朽ちかけた建物群ばっかだな。
そろそろ見飽きてきたぞ。

…と考えていると前方向から怒鳴り声とただ事でない喧騒が聞こえてきた。
目を向けてみるとちゃらついた男二人と、
凛とした立ち姿が美しい女性が向かい合っていた。


「この小悪党ども!おとといおいで!」
「ちっ。このクソ婆っ」
あ。暴言はいた途端、チンピラAが投げ飛ばされた。
だめだぞ〜女性に向かってそんなこといっちゃぁ。
後が怖いんだぞ〜。
「おい行くぞ!この婆ただもんじゃねぇ」
「くそっ」
ふらふら立ち上がるチンピラAは屈辱と怒りで殺気をみなぎらせている。
けど顔を青ざめたチンピラBが忌々しげに諭すとAもしぶしぶ引き下がった。
「この婆っ、あとでみてろよ!!」
なんて捨て台詞も忘れないあたり、チンピラの鑑だ!
「ふん。口先だけ一著前のぴよっこが」
尻尾巻いて逃げるチンピラ2の後姿を睨み据え、パンパンとその女性は手をはたいた。
うおお。かっけー!
何この人、仁義な道の姐御っすか!?
ちょっとお知り合いになりたいかも。
そう思って俺はおろそかになっていた歩みを進めた。

崩れかけの壁から出るとその人は俺の方に顔を向けた。
ああ・・・そういえば俺、そんなに視力良くないんだった。
「なんだい。お前も奴らのお仲間かい?」
「いいえ、違います!」
ギロリと睨まれ、俺はやっと先ほどのチンピラの気持ちがわかった気がした。
まさに蛇に睨まれたカエルならぬ、鬼婆に料理される寸前の板の上の鯛だ!
いや、もうこの例え俺もわけわかんねぇけど。
とにかく身に覚えがなくとも、今すぐ逃げ出したいってことだ!
「ならさっさとお帰り。あたしゃ忙しいんだよ」
そっけなく踵を返すそのお姿は機敏としていて、
とてもその年齢の女性には思えない。
うん、まぁつまり、近くで見ると結構なお年を召してらっしゃってたんです。
視線が外れて、やっと人心地ついて彼女の背を見送る。
なんとなく彼女の進む先に視線を彷徨わせると、
今にも崩れ落ちそうな小屋があり、
その周辺には・・・・
「お婆様、いやお姉さま!そのお野菜を恵んでくれ!!」
呆気にとられた婆さんが振りかえる。
俺はなりふり構わずに婆さんのもとに走った。
やっと見つけた食のオアシス。
見逃してなるものか!

そして野菜をめぐる俺と婆さんの愉快な戦いの幕が切って開かれるのであった。
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