短編

□風邪の役得 F
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「・・・すまない、藤代。」
珍しく眉をハの字に垂れて、そういった。
「え、何で・・・?」
「お前が看病しに来てくれたとき、移ったのだろう?」
熱があるわけでもないのに真っ赤に顔を染めた不破が愛しい。
だるい腕を持ち上げて、不破の頬に触れる。
「俺が勝手にしたことなんだから、いーの。ね?」
「・・・しかし、」
「良いんだって。こうやって、不破が看病してくれてるんだから。」
むぅ、と唸る声。それが不破の照れ隠しだってわかってるから、愛しい。
もしこんな状態じゃなければ、確実に不破を抱きしめてた。
愛しすぎ。可愛すぎ。
「・・・ねぇ不破。」
「ぬ・・・・?」
「この前俺がしたみたいに、水飲ませて?」
不破の隣に置いてあるコンビニの袋の中身は、おそらくミネラルウォーター。
このまえのお返しのつもりかもしれない。
「む・・・俺から、か・・・?」
困惑したように、恥ずかしそうにしているように見えるのは俺の見間違いじゃないだろう。
そんなところも愛しい。
駄目?、って聞けば、不破は少し考えてから、横に首を振った。
がさ、とビニールの擦れる音と一緒にペットボトルを出して、口に含んだ。
躊躇うように俺に近づいてくる。
不破が、真っ赤な顔で目を閉じて口付けてくるのがすごく愛しくて、流れ込んでくる冷たいそれを飲み込んで、離れようとする不破の後頭部に手を回して離さないようにした。
「ん、むぅっ・・・」
抵抗自体は凄くささやかな物で、本気で抵抗しているわけじゃないのが分かる。
いくらこの状態でいてももう水は喉を通らないのに、離れたくないから離さない。

ああ、もう、愛しい。

どうしようもない、これ以上ないくらいに愛しい。
こんなに可愛い不破を見れるのなんて、世界中でもきっと、いや絶対、俺だけ。
桜上水の奴らにだって、こんな顔見せない。もちろん俺が。見せさせない。

「んんん〜〜〜」
ぷはっ、

思考に身を委ねてたら逃げられた。
「・・・馬鹿者!」
真っ赤な顔で怒ったって扇情的なことくらい学習できないのかな。
俺だって男だし。男は狼なのよ〜って誰か歌ってたじゃん。って、不破も男だけど。
不破になら「馬鹿」呼ばわりされても気になんない。
それだけ「不破馬鹿」なんだろうし。
許してよね、不破。

「ねー、不破ぁ。」
「・・・・・・」
「やらしいことしないからさぁ。」
「当たり前だ。」
「・・・・・・。

添い寝して?」
本日二度目の俺のおねだりは、不破が顔を赤に染めたままで答えてくれた。



end.




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