犬妄想文格納庫。
□夢。
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日差しが、気持ち良くて。
何よりかごめが側に居ると言う事に極度の安心を覚えて。
俺の意識は、彼方へと引き摺られた。
夢、だったのだろうか。
酷く現実感が薄れた、果てしなく薄墨色の景色。
透明感は一切無く、濁り切って澱んだ空気。
その中に只一人、俺が居た。
何処に行こうとしていたのかも定かではない。
ただ、一人で当ても無くその濁り切った中を突き進んだ。
何時しか頬を伝うのは、温かくもなんとも無い冷たい自身の涙。
寂しいなんて思わない。
切ないとも、哀しいとも思わない。
俺を愛する者なんていないから。
記憶が、曖昧だった。何も覚えていない様で、その実嫌な記憶だけは鮮明に蘇る。
良かった記憶なんて、一つも無い。
そう思っていた。
けれどその瞬間、脳裏を掠めたのは一人の少女の笑顔。
屈託無く笑うその顔に、見覚えがあった。
けれど、如何しても思い出せなくて。
もがき喘ぎ、思い出そうと試みた。
でも、そうすればそうする程薄墨色の景色は密度を増して俺に絡み付く。まるで、記憶を取り戻す事を拒むかの様に。
濃密な闇に、取り込まれそうになった。
けれど。
「犬夜叉…?」
何処かで聞こえる、耳障りの良い少女の声。
あぁ、俺はこの声を知っている。
恐らく、何処の誰よりも。