駄文
□泡沫の交わり。
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如何する事も出来ずに、かと言ってそれに身を任せる訳でもなく。
ただ、彼等は其処に居た。
一体此処が何処なのかも解らない。解るのは其処が深い森の中だと言うことだけ。天の中空に浮かぶのは、美しい満月。
不意に、その満月の光が彼等を淡く照らし出す。
「…も、やめ…ろ。どっかいけって言ってんだろ…!?」
突然に声を弱く張り上げた少年。その髪は、もし今宵が月の無い新月の晩であったなら周囲の闇に溶け込んでいただろう、漆黒の長髪。
「うるせぇ。俺は折角出て来れたんだぜ?素直に『はいそうですか』って戻る訳ねぇだろ!?」
その言葉に乱暴な口調で答える少年。その概観は黒髪の少年と瓜二つではあった。が、まず髪の色が違う。そして、その眼は緋と藍に彩られ、両の頬筋には隈取の様な筋が一筋。
人の姿と、妖の姿。
二人は、同じ。
一人の「犬夜叉」でありながら、彼等は己が身に巣食う人の血と妖の血に抗う事は出来ず…
最近になって、犬夜叉は度々「分かれる」様になった。
「よう、人間…。」
「んだよ。」
この忌まわしい人の身と妖の身に「分かれる」様になってから、妖の姿をした『自分』に必ず求められる行為。
「ヤろうぜ。」
「んなっ…!!」
突如発せられた言葉に思わず顔が熱くなるのを感じた。
「ば、ばかやろっ…、おまっ…」
「嫌なんて、言わせねぇぜ?」
「なっ…ん、んむ!?」
次の言葉を紡ぐ前に、唇を唇で塞がれる。牙の当たる感触。走る痛みに思わず身体を引こうと試みるが、逆にぐいと体を引き寄せられ、更に激しく牙をぶつけられる。
「てぇっ…。」
「それがイイんだろ?」
一旦唇を開放されたかと思えば、再び奪われる。絡まる舌のざらりとした感触に思考を奪われそうになるのを、必死で振り切る。
しかし、憎らしい事に向かうべき敵は何者でもない、自分自身。
下世話な話だが、当然自分の事なのだから自分の良く感じる箇所位、嫌と言う程熟知している。
妖怪の野郎は、俺の弱い所を知っている。
耳朶に吐息がかかる様にワザと声を顰めながら、その残忍な口の端をニヤリと吊り上げて言葉を落とす。
「言ってみろよ、『欲しい』ってよ」
「!?」
言葉の意味が解らず、びくりと身体を引き攣らせる。
「たまにはお前の方から求められてぇ。」
「ふ、ふざけんな!!だ、誰がんな事言うかってんだ!」
「…へぇ。」
そう言うと珍しく妖怪の野郎は押し黙る。
…嫌な予感がした。
こんな時は大体、本気で機嫌が悪い。そしてそんな時に奴に「抱かれる」と言うことはすなわち。
いたぶられる。
その事を意味していた。