駄文
□狂い咲き。
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血が狂い出しそうだ。
俺の中の穢れた血が、その欲望の全てをかごめに向けたまま。
喩えそれが微かな残り香だったとしても、それがかごめの物だと言う、たったそれだけで俺の中に淡く強い執着をもたらす。
好きだ、大好きなんだ。笑顔だけじゃない、とにかくお前が愛しくてたまんねぇんだ。
泣いてる顔も、怒ってる顔も、心配げな顔も…、その全てが。
その顔が苦痛に歪むのさえ、きっと俺には心地良い。
俺が何を考えているのかなんて知らねぇまま俺だけに見せるその笑顔が、愛しくて憎らしい。お前が俺以外の野郎に向ける笑顔が、異常なまでに腹立たしくてたまらない。
お前の笑顔は全て俺だけの物だと在りもしない事ばかり考えて、叫びたくて、如何する事も出来なくて。
そんな事を想う資格、俺なんかには無ぇって解っているのに。
きっと、認めたくなかったんだ。
全力で半妖の自分を否定して。
全力で人間の自分を否定して。
全力で妖怪の自分を肯定して。
いつか堂々とかごめにこの想いを伝える事が出来たら…と。
夢を見ていたんだ。
そんな事出来ねぇって、夢なんだって、許されねぇんだって…信じたくなかったから。
弱かった自分を捨てて強くなる事が出来れば、その資格も手に入るんじゃないかと。
解ってくれ。欲しいんだ、欲しいんだよ。お前の全てが愛しくて、欲しくてたまらねぇんだ。
初めの内は、あんなに嫌いで嫌いで仕方無かった癖にな。
あの頃は取り敢えず、こんな俺なんかに優しい言葉をかけたりなんかしやがる鼻持ちならねぇ女のことなんざ、信用する気にもならなかった。
言葉なんて脆弱なモノに支えられようとする自分を、認めたくは無かった。
…けれど、次第にあいつは俺の事を知ろうなんて気を起こし始めて。
その事が俺は、別に嫌でも無くなって。
何時しか、無くした筈の「情」と言うものが再び俺の心の中に芽生え始めていた。
それだけで、良かったんだ。
本当にそれだけで、そのままで。
そうすれば俺もこんな風に狂わずに済んだのに…よ。
何時から…?
一体、何時からだ?
俺の自我が崩れ始めたのは。
もう…駄目なんだ。
欲望が抑え切れねぇ。
これ以上かごめといると、俺が壊れてしまうから、ならばいっその事、殺してしまおうかと思った。
実際、もう見てらんねぇんだよ。
俺がお前に対して、どれだけ浅ましい妄想を抱いているかなんて知らないで、無邪気に俺の横で笑って。俺が見ている前で他の野郎に近付くのも、話しかけるのも…何もかも本当なら今すぐ止めて欲しいのに。
…嫌なのに。
俺だけのモノで居て欲しいのに。
自覚の無いかごめの無邪気さは、余りにも残酷な暴力性を秘めていて。
伝わらねぇ、伝えられねぇ想い。それら全て、かごめを殺してしまえばなくなると思っていた。
本当はもう、遅かったのに。
そう、もう遅かったんだ。もう殺せなんかしない程かごめが愛しくて堪らなくなっていた。
愛しくて、愛しくて、愛しくて、愛しくて、愛しくて、愛しくて、愛しくて、愛しくて、愛しくて………。
純粋な気持ちでお前を愛せたあの頃に、戻れたらよかったのにな。
…もう…遅過ぎたけれど。
心が闇に飲まれる。暗く深い闇の底へ堕ちて行く。理性なんて、もう消えたも同然だ。俺に残されたのはあの女に対する浅ましい欲望と、異常なまでに俺を支配する高揚感。
…どうせ手に入らないのなら、そんなモノ。
俺の手で、穢し尽くして壊してやる。
あの女の、心も、体も、俺に対する想いも、全て。