駄文
□狂い咲き。
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…********…
何かを考えてこうした訳じゃない。
ただ、側に行きたかったから近付いた。
逃げられたく無かったからかごめをかごめを組み伏せた。
抵抗されたく無かったから両手首を封じた。
口付けしたくなったから、口付けた。
こいつは…なんて澄んだ眼で俺を見るんだろうか。
その澄んだ眼にこの俺が映されているなんて事が果たして許されるのか?
そんな自身の思いに反して、俺の身体はかごめに触れたがる。
…あれ程ゆがめてやりたかったかごめの円らな瞳が俺を見つめる。その眼はまるで、俺の為だけに涙を流す、それだけの為に存在しているんじゃないかと疑う程、大粒の涙を溜めていた。
そして、ぽろりと雫が零れ落ちる。
「ごめんね…。」
言われた言葉に対して、反応がしばし遅れる。
意味が、解らねぇ。
「んだと?」
「ごめん…な…さいっ。」
ほろほろと涙を零しながら、尚もかごめは紡ぐ。
「ごめっ…ごめんなさ…っ!!」
なんなんだよ。
意味が解らねぇ。
…うぜぇ。
生まれでた感情は、「どうにかしちまいてぇ」と言う欲望。消えない欲望の爪痕をその体中に刻み付けて犯してやりてぇ。
綯交ぜの感情は心を蝕み、失せかけた筈の支配欲を鮮明な物にする。
「ごめんなさ…。」
「るっせぇ!!」
「!!…っ!」
一吼えしただけでびくん、と肩を竦める様にしたかごめは、今迄より更に眼を丸くさせて俺を見る。
まるで、小動物の様に。
「こっ…の…!!」
「ひゃぅ!」
ずざっ!!
突然に湧き上がった感情が、かごめの苦しげな悲鳴を糧に更に異質な方向へと俺の意識を導く。
気が付くと片手でかごめの白く細い首をぎりぎりと強く締め上げていた。
がくん、と持ち上げられるかごめの身体。
「きぁっ…、いぬぅ…や、ひゃっあぁ…っ。」
漏れる声が、堪らなく心地良い。俺に対してだけ発されるその声。その白く細い首に、肌に、俺の爪が喰い込んで行くこの快楽。
ずっと、忘れていた。
「あっ…うぁ。」
「その声だ…!!もっと鳴け!」
「!!…そん、なぁ…っ。」
息が通らない。苦しくて、悲しくて、訳が解らない。
頭が…痛い。ぼうっとして…。
揺らぐ視界に惑わされる。
そのほんの少しの間の、更に僅か一瞬。
「あっ…ぅ。」
かごめの見上げた先の、犬夜叉の眼が。
「ひう!!」
余りに酷薄で情けの欠片も無い程歪んだ、それでも尚美しいとさえ感じてしまう程濃密で、それで居て暗く澱んだ紅と藍。
鋭く光るその眼は、何者も受け入れない眼。その光には、いつもの様に屈託無く笑う犬夜叉の眼の輝きは一切無い。
獣の、眼。
「へへっ…、そろそろ限界か…?」
言うなり、ぱっと犬夜叉の手がかごめの首を開放する。
「げほっ!!」
急激に大量の空気に喉を侵食され、余りの苦しさにかごめは今にも吐き戻しそうな勢いで咳き込む。
そんなかごめを犬夜叉は冷たい眼で見下し、その口許に歪んだ笑みを浮かべる。
「安心しな、まだ殺しやしねぇよ。…もったいねぇ。」
くくっ…、と下卑た笑いを未だ激しく咳き込むかごめに吐き掛ける。
「うっ…!げほっ、げほっ…、う、うぇっ!」
「…ふん。」
暫く咳き込み続けるかごめを、犬夜叉は退屈そうに眺める。
かごめは向けられている視線に気が付きつつも、こみ上げる息苦しさだけは如何する事も出来ずに今に至る。
首からは再び血液が滲み出す。
「いたっ…。」
首をそっと押さえながら、かごめは痛みを堪える。
そんなかごめを見て、犬夜叉は再び面白い物を見つけたかの様に、口の端をニヤリと歪める。
そして。
「来な。」
かごめの手首をぐいっと乱暴に掴み引き寄せる。
「ひゃん!!」
どさり、と倒れ込んだ先は、犬夜叉の胸。
「あ…。」
恥ずかしさと恐怖で、犬夜叉の顔が見れない。
上を見上げたら、何かが終わって、何かが始まってしまいそうで。
…かと言って、何時までもこのまま「彼」の胸に顔を埋めている訳にも行かない。
「…何、俯いてんだよ。俺を見ろ。」
不意に顎に手をかけられ、くい、と上を向かされる。
「あぅ。」
見上げたその先には…あぁ、やっぱり変わらない、狂った眼。
その眼の持ち主は、かごめに下卑た笑みをぶつける。
「やっぱり殺さなくて正解だったな。…お前の声、すげぇ厭らしくてたまんねぇ。」
「…!やぁっ…、そ、そんな事っ…!!」
「本当の事だろぅ?」
言うなり、犬夜叉はかごめの顎を上に向かせたまま斜めからすっとかごめの首に顔を近付ける。
そして犬夜叉は、たった今広げたばかりのかごめの首筋の傷口に己の唇と舌をあてる。
ぴちゃっ…。
「やっ!ひ、ひゃぅ!!」
響くかごめの喘ぐ様な声と、淫らな水音。
ぢゅう…っ。
「やぅっ…ん、ん!」
ちゅぷ、くちゅ…っ。
「はぁっ…ちょ、だめ、だめ!」
「何言ってやがる…、ほら、まだまだ血ぃ出てんぜ?」
「つぅ…!」
犬夜叉はかごめの首筋の傷口から滲み出た血を、わざと厭らしい音を立てながら舐め取る。
「いたぃ…っ。」
傷口に犬夜叉の唾液が沁みる。痛いのに、何故か身体が熱くて、震えてくる。
この感情は、何なの…?
そんなかごめの心の想いを知ってか知らずか、犬夜叉は尚もかごめの首筋を舐めずる。
その光景は何処か愛しくて、それでいて何処か厭らしくて。
辺りに響く濡れた音が、かごめの脳内をじわじわと犯してゆく。
「やだぁ…!」
怖い。
直感的にかごめはその答えに行き着く。理由なんて物は無い。
けれど。
…何故?
この先起こり得るであろう、おぞましい展開が不意に頭をよぎる。
抵抗なんて、出来ない。
元はと言えば、私の所為でも在るのだから。それに、何より…。
私自身が犬夜叉を好きだから、一緒に居たい。一緒に居て、犬夜叉の全てを受け止めてあげたい。
しかし犬夜叉は、かごめのそんな想い等、解ろうと行動を取る訳も無く、只、自身の抑え切れない欲望をかごめに刻み込もうとするばかりで。
延々と犬夜叉の熱を帯びた舌が、かごめの首筋を執拗に嘗め回す。
そして、そのぬるりと自分の首を這いずる犬夜叉の舌の感触にかごめは図らずも感じてしまう。
「やぁ…ん、やめっ…!」
「へへっ…、お前の血、極上だぜ?…もっと欲しいな。」
「やぅ!」
「その声も…もっと欲しい。」
「な、なんでぇ…も、やめてよっ…!」
「良い声だ…、すげぇ厭らしくて…よ?」
こんな言い方を犬夜叉がするなんて、信じたくない。
「や、やだ!なんで、なんでっ…犬っ…や、しゃぁ…。」
「そんな事、知るかっての。…ま、知ってたとしても、お前には教えねぇだろうけどな。ただ、俺がお前に言えんのは…。」
「い、言えるのは…?」
かごめを見る犬夜叉の双眸が、ぐにゃりと狂気に歪む。喰い入る様にかごめの身体を見つめる、その残忍な眼。
「今の俺は、お前が欲しい。…それだけだ。」
「っ…!!」
「…楽しませろよ?俺ぁ今迄散々待たされて焦らされて、堪えて、我慢してきたんだからよ…?」
「い、嫌っ…!」
「もう、限界なんだよ。…当然だよな?すげぇ、長かった。」
「あぁ…、や、やぁ…!!」
かごめの声が、恐怖に掠れる。
そんなかごめをとても楽しそうに、とても愛おし気に見つめる犬夜叉。
その口許には、歪んだ残酷な笑み。狂気を縁取る酷薄な薄笑いは、かごめの恐怖を高めるには十分すぎる程だった。
…獣欲に支配された犬夜叉にとって今のかごめは、垂涎の的。
犬夜叉の双眸が歪む。
「俺に、穢されちまいな。」
…********…
やだ。
信じたくない。
信じない。
…お願い、信じさせないで。
犬夜叉が私を犯そうとしている…なんて。
こんなの…、認めたくない。
嫌なのに。
認めたくなんか絶対無いのに。
どうして…?
どうして、肌を這う犬夜叉の舌と爪の感触は、こんなにも鮮明に私を犯すの…?
「やめ…て、よぉ…っ。」
涙混じりに口にしたかごめの言葉に、犬夜叉の耳がぴくん、と反応する。
「ね、いぬっ…や、ひゃぁ…おねがいっ、こんな、こんなの…やあぁ…!!」
「………。」
聞こえている筈なのに。
余りに悲痛な、かごめの叫びとも聞こえる声は聞こえている筈なのに。
…犬夜叉は、何も答えない。
答えないまま、犬夜叉はかごめの制服の裾からぬっ、と自身の手を挿し入れる。
「やぅ!!」
ぴくん、と突然の事に驚きを隠せず、かごめは思わず声を漏らす。…すると。
「そうだ。…その声がもっと聴きてぇんだよ!」
口を開いたかと思うと、犬夜叉はやにわにかごめの胸の膨らみを強く揉み始める。
まるで、しなやかで脆いかごめの肢体を喰い荒らし、貪るかの様に。
「あ、や、やぁ!やめっ…ひゃあぁ!」
「そうだ、良い声だぜ?もっと響かせな!!」
「いや、いや…っ、あぅ!」
余りにも酷すぎる愛撫とも取れない愛撫に感じているなんて、認めたく無かった。
せめてこの事を犬夜叉に悟られぬ様に振舞おうと試みる…が。
「え…?な、何っ!?」
「へっ…。」
再び何も言わずに、ただ薄笑いをその口許に浮かべながら、犬夜叉の無骨な指先が今度はかごめの
太腿をずるり、と這い回る。
「ひ…!」
「へへへっ…!」
漏らす声は純粋な快感の為では無く、恐怖と焦燥の入り混じった複雑な物で。
その間も犬夜叉の指は無常にも、かごめの内股を嬲るようにしてじわりじわりと這う。
「いやぁっ…!!」
かごめの声が、虚しく響く。
…********…