駄文

□殺した筈の。
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…********…



「や、やだ犬夜叉っ…?」



 壁際に追い込まれたかの様な体勢で立ち竦むのは、紛れも無い。



 愛しい愛しい、かごめ。



 そして



「もう…逃げられると思うな。」



 そのかごめを追い込んでいるのは、他でも無く自分自身。



 如何して、こうなってしまったのか。

 悔やんではいない。

 悔やんでは、いない。

 ずっと前から俺はこうしたかったんだ。

 こうなる事を望んでいた。

 そう…"あの日"も。



 今更、悔やむなんて感情。



「いぬ、やしゃぁ…!!」



 ぽろぽろと大きな眼を歪ませて大粒の涙を零すかごめが、堪らなく愛おしい。

 優しく抱き締めて、そのやわらかい髪を手で梳いて撫でてやりたい。



 けれど。



 同時に、残酷な俺が眼を覚ます。

 俺はかごめが泣いている時に見せる表情が大好きだった。

 その柔らかそうな二の腕を掴んで引き寄せて、爪で小さな傷を刻んで滲む血を舐めてやりたい。



 かごめの血の香りは、極上の甘さ。



 一度味わったら、知ってしまったのなら、もう止まらない。

 何時だって俺はその香りを求めていた。

 何時だって俺はかごめを目で追っていた。



 …難しい事言うのは性に合わねぇ、簡潔に言うぜ?



 俺は、お前の事がすげぇ好きだったんだ。



 本当に、好きだった。

 大好きだった。

 好きなんだ。

 好き…なんだ。



 だから。



 だから俺は、お前が他の男と話しているのなんて見ていられなかった。

 楽しそうに話して欲しくなかった。

 その笑顔を他の男に見せていると言う現実に、腹が立った。

 声を聞かせるのさえ許したくなかった。

 俺だけのモノでいて欲しかった。



 それだけなんだ。



「へへへ…っ」



 口を突いて出たのは、喜び。



「い、いぬっ…。」
「もう、逃げられねぇよ。」
「!!」
「逃げられないんだ。」
「や…やぁ…!!」
「お前は、もうずっと俺だけのモノだ。」
「犬夜叉…!」
「ずっと…ずっとだ。」



 あぁ、愛しい俺の小さな鳥。

 お前はもう鳥籠の中。

 俺と言う名の鉄格子の中。



 逃がしてなんて、やるものか。



…********…



「犬夜叉は…私の事嫌いになったの…?」
「…はぁ?」



 かごめの口から出た言葉に、犬夜叉は思わず眉を顰める。

 その表情は冷たく、感情を読み取る事は難しかったがひとつ解る事。
 それは、今の一言で確かに犬夜叉は気を害した。



「…如何いう意味だ?」



 低く唸る様な声で呟き、かごめを更に壁際へと追い込む。
 そして、反動でよろりとよろけたかごめの背中に冷たく堅い壁の感触。



「どんなって…えと、その…。」



 もにょもにょと口篭るかごめを冷ややかな目で見下ろし、それを確認した途端犬夜叉はかごめの顔のすぐ横の壁にどん!と荒々しく腕を着き、かごめの耳元に唇を寄せる。



「如何いう意味だって、聞いてんだよ。」



 吐息を吹きかける様にして問い詰める。
 その語調は暗く重いのに、何処か愉し気で。



「んや…!」



 生暖かく耳をなぞる吐息にびくんと肩を竦め、かごめは反射的になのか瞼をきゅっと閉じる。

 それでも答えなければと思ったのか、かごめはゆっくりおそるおそると瞼を開け、口を開く。



「私の事、嫌いだから…こんな事するんじゃないの…?」
「誰が?」



 口元に冷たい薄笑いを浮かべ、犬夜叉は紅と藍に彩られた眼を歪ませて問う。



 まるで、追い詰めるかの如く。



「い、犬夜叉…が…。」



 ぽつりと呟くかごめの声は、掠れそうな程小さく。



「へぇ。」



 その後に続いた犬夜叉の声が、嫌に重く頭に響く。
 軽くあしらう様に鼻で笑い、その次の瞬間には眼の色が変わる。



「…ふざけんな。」
「ひゃっ…!」



 鋭く光る爪が、触れるか触れぬかの所でかごめの頬をざらりと這う。
 嬲る様な視線。逃れる事など、出来る筈も無い。



「まだ、解んねぇんだな。」
「え…。」



 呟いた犬夜叉の声が、一瞬哀しく響く。



「これでもまだ、お前は気が付かねぇんだな。」
「なに、を…。」



 犬夜叉は爪をかごめの首に這わせ、言う。



「俺は、お前の事大好きなんだぜ…?」
「!!」



 そこまで言うと、犬夜叉はかごめの首に腕をぐいと回し、肩に顔を埋める。



「誰にも、負けねぇ。」



 白銀の髪の波が頬と首筋をふわりと撫でる。
 首周りに回された逞しい本来なら自分を護ってくれる筈の彼の腕。

 息使い、そして鼓動まで伝わり来るこの距離。

 余りにも、近くて。

 足がガクガクと震えて止まらない。

 遂にかごめの体は壁にもたれたままずるずるとへたり込む。
 犬夜叉はそんなかごめの首筋に埋めた鼻先を僅かにずらし、鎖骨に沿ってぬるりと舐め上げる。



「やっ!!」



 びくりとかごめの体が上ずる。



「お前が解らねぇだけだ。」
「ひゃ…。」
「お前が、悪いんだ。」
「やぅ…!」



 何故だろう。

 そう言った彼の声が、とても苦しそうに聞こえたのは。



「俺の事だけ…見てれば良かったんだ。」



 紡ぐ言葉は一見自己中心的な独占欲。



「俺の為にだけ、笑ってくれれば良かったんだ。」



 けれど、けれど、けれど。



「俺の事を…。」



 それは、私の間違いだ。



「置いて、行くのか。」



…********…



 置いて行かれるのを恐れた。

 如何しようも無く、成す術も無く。

 ただ、己の一番苦手な「受身」と言う姿勢でびくびくと恐れ続けていた。



 ようやく見つけた居場所が消えてしまう事を恐れた。



 かごめに支えられていると言う事実を隠すのも面倒で、ただ如何にでもなれば良いと待ち続けた。



 でも、もう受身なんてまっぴらだ。




 むざむざ何もせずに只失うよりは、俺なりに引き止めて見せようじゃねぇか。

 …いや、失うものか。手放すものか。



 逃がすものか。



 かごめは、かごめは、かごめは。



「俺の…ものだ。」
「犬夜叉…?」



 一瞬、犬夜叉の眼が泣いている様に見えた。
 でも、それはすぐに歪んだ狂気の中に紛れてしまって。



「このっ…。」
「きゃ!」



 突然語調を荒げ、犬夜叉は己が右手をかごめの高等部に滑り込ませると指にしっとりとした黒髪を絡め、頭をしっかりと固定する。



「この、髪も。」



 左手で一筋の髪を手にし、そっと口付ける。

 そしてそのまま左手をかごめの顎にかけ、僅かにくい、と上を向かせると今度は唇が触れるか触れぬかの位置まで近付いて、吐息を絡めるかの様に囁く。



「この、唇も。」
「…え?」



 かごめが思わず声を漏らしたのを見ると、犬夜叉はその残忍な眼をニヤリと歪めて強引に唇を重ねる。



「ふっ…、ん、ん!」



 苦しそうなかごめの声すらも押し込めるかの様に、抵抗が強まる程更に激しく、深く舌を絡め貪る。

 次第に犬夜叉の舌はそのままかごめの肌を這い、首筋、鎖骨…と紅い痕を残して行く。



「ひゃっ…あぁ!!」
「良い声だ。」
「あ、あぁぁ…、やぁ…っ。」



 次に犬夜叉のとった行動。

 かごめの制服の裾に手をかけ、下着ごとぐい、と捲り上げる。



「やだっ…!!」



 露わになった胸の膨らみを隠そうと足掻く度に、皮肉にも彼を誘うかの様にふるふると揺れる膨らみ。

 その片方を犬夜叉は左手でむにゅりと掴み上げ、既にぴんと張り詰めている先端部分に舌を這わせる。



「ひゃ、あぁ…やだ…!」
「俺の…物だ。」
「あ、やぁ…あぁ!」



 抵抗を試みるも、力は当然敵う訳も無く、加えて手足は震えるばかりで、まるで抵抗の二文字を失ってしまったかの様。



 犬夜叉の視線から、舌から…。



 いや、彼から逃れられない。



 変化した彼。

 何故再び我を忘れ失い、自分を犯そうとしているのかも解らない。

 どうして…?



 あの日から一度たりとも忘れた事の無い紅と藍に彩られた眼が、どうしてまた私を蔑み嬲り犯す様に私を見ているの?



 どうしてこんなに冷たいの?

 どうしてこんなに哀しいの?

 どうしてこんなに泣きたいの?



 どうして…?



…********…
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