□VD
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今日は2月14日、バレンタイン。
今年は去年とは違う…!
去年、越野に片思い中の俺は越野から渡されたチョコに胸を高鳴らせた…が、その直後に悪意無い…無邪気、そう、無邪気な言葉に期待はへし折られた。

「女子に友チョコ作ったんだけど多くてな、困ってたんだよ」

いや、うん、分ってたんだ。
越野に色気や可愛げを求めるだけ無駄だって。
だって越野だよ?
寒い日は普通にスカートの下にジャージを履く越野だよ?
男の俺の前で普通にゲップもする越野だよ?
良い雰囲気を作ってもうどんの固さの方が気になる越野だよ?
いや、でも今年は違う!
俺は越野の彼氏…俺は越野の彼氏!!
あの一件以来少しずつ女の子らしくなってきてるんだ、今年はきっと手作りチョコなんて物を用意してくれてる筈だ。
どんなのだろう…以外とあれで凝った物だったりして。
さっき部活で会った時には何も無い様に見せてたけど、きっと恥ずかしかったんだろうなぁ。

「何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪い」

朝練前の人気の少ない体育館、その中央で無意識にも笑っていた俺に入る越野のツッコミに慌てて平常時の顔を作る。
貰う用意なら出来てる、早くくれないかな。
自然とニヤけてくる口を何とか正そうとするも、楽しみ過ぎてなかなか出来ない。

「何か言う事は?」

一人顔芸大会中の俺にいきなりの越野からの言葉。

「言う…事?」
「はぁ?なんだよお前、ふざけんな!人がわざわざ早く来てまでロッカーにチョコ…」

大声で怒鳴り散らす越野は、自分に集った視線に慌てて口を塞いだ。
マネージャーとして越野が入って来るよりも先に、俺と越野の仲なんて部内で広まっていたけど、それでもそれが更に公になるのを越野は嫌がっていた。
ごめんと呟いて頭を撫で様とするも、それをしても尚更機嫌を悪くするだけだと気付き手を引く。

「もう知らねぇ、二度と作んねぇ」
「ごめん、俺今日まだ部室に行ってないからさ。着替えもここでしたし。でも、すげぇ嬉しいから…その、有難う」
「…ばか」

あぁ、このばかは許してくれる時の合図だ。
そう思ったら無性に愛しくて抱き締めたくて、それでも何とか我慢した。
とりあえず、この愛しさの分もロッカーの中のチョコは大切に味わって食べようなんて思って。
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