□重い愛
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結婚なんて出来るわけじゃない。
まして子どもが作れるわけでもない。
だから続くわけもない。
ないない尽くしの関係が終りを迎えるなら、一つくらい我儘を言ってしまおうと思った。
その我儘は、自分で分る程…




―重い愛




「なぁ、花形。お前将来結婚して子ども出来たら、俺の名前付けろよ」

半年の短い恋人の期間を終えた頃、季節は冬を迎えた。
別に恋人の期間を終えたからと言って傍目に変るのかと聞かれれば大した変化も無く、行為をするかしないかくらいの違いしか無い。
どう足掻いたところで、男の俺が男の花形に子どもを産ませる事は出来ない。
何より望んでもいない。
その非生産的な行為も半年の期間では回数自体が少なく、元々部活に打ち込んでいた俺達には付き合っていようがいまいが同じだった。
好きになったのも俺が先なら告白をしたのも俺、別れを切り出したのも俺。
それでも気持ちを返してくれた以上好意は花形にもあったんだと信じて、二人になった帰り道で切り出した。
言葉と一緒に吐き出された白い息が、別れてからの時間の流れを俺に告げる。
俺の言葉の意味を理解出来ないのだろう、花形は一言として話さない。

「俺、別れてもやっぱりお前の事は好きだし、どうせ付き合ってても続かないなら、それも面白いかなってな」

花形のDNAを持つ自分と同じ名前の子。
産んだのは花形が結婚する程に愛した女。
それだけで与えられる無条件な愛。
無条件な愛に勝る愛し方は無い、理由も無く惜しみも無いのだからそれはまさに最高の至福。
別に死んで生まれ変わろうとかそんな考えは全く無い。
必要なのは名前と言う僅かな一致、それだけで俺は俺を投影した幸せと愛情を得られる。
きっと変らずに続く俺達の仲なら、結婚しようが子どもが出来ようが交流は続く。
たまに遊びに行って俺と同じ名前のそいつを俺は誰よりも好きになる、当たり前だ、好きな奴とそいつが愛した奴との子なんて、可愛くない筈が無い。
俺が一人思った事を声に出して話していると、高い位置から聞こえてきた小さな笑い声。
あ、この顔好きだとかそんな事を思って見ていると目が合った。
どーよ?と笑う花形に問う。

「お前の愛は重いな」
「やっぱりか…俺もそう思う」

絶えない笑みに、その言葉が悪い意味を持たないのだと分る。
花形の言葉に納得した様に、頷いて真剣っぽく返した言葉。
俺自身正直全てが本気なのか半分くらいは冗談なのか分っていない、真剣に話す程大した内容を話している気もしない。
だけど、その曖昧な空気が落ち着いた。

「重いけど、面白い考えだった…何年先になるかは分らないが考えておく。お前の名前なら、バスケの上手い子になりそうだしな」
「出来るだけ早めにな、俺が先に結婚なんてしてもシャレになんねぇから」

自信は無いと言う花形の姿はデカいわりにまだまだ学生特有の雰囲気に包まれていて、そんな何年先なのかさえ分らない姿を想像する事は出来ない。
ただ、まだまだこの曖昧な時間を楽しむには都合が良かった。
結局はまだ、手放すには惜しいんだ。
俺の名前を付けろ、これは我儘じゃなく頼み。
若干強制。
俺が言った我儘、好きな奴が出来るまでは傍に居ろ。
まだまだ継続中。







目指したのは乙女思考×若干乙女思考でほのぼの

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