□今、反旗は翻された
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言葉が少なくてもその気持ちに疑いは無かった。
俺みたいに多く伝えるのとも違って、一回一回に重みがある。
それでもたまに俺からねだりたくなるのは、その響きが欲しいから。
聞かせて、その声で。




―今、反旗は翻された。




二人きりの俺の部屋の中、可愛い可愛いと連呼していたら煩いと怒られた。
何処がだよとぼやく姿さえ可愛く見える。
何処がじゃなくて、全部可愛く見えてしまっているのだから説明しようが無い。
そう何度も口にしていたからか、俺に怒鳴り調子で尋ねて来る事が無くなったのは少し淋しい。
本当はいつだって言っていたい。
越野が口にしない分、俺が…なんて事を考えてるわけじゃなく俺が言いたいだけだけど。
ベッドに寄り掛かって本を読む後ろ姿を、俺はベッドの上から眺めていた。
怒る時さえ振り向かない慣れた様子に、そんなになるまで何度も言って来たのかと思わされる。
でも確かに言っていた、二人になる度に。
越野の後ろ姿は女の子を重ねるにはがっしりしているし、丸みも無い。
打ち込んでる物が室内球技なだけに肌は少し白いけど、それくらいだ。
俺は元々女の子が好きだと思って生きてきたのに、それでもこの男にしか見えない後ろ姿さえも可愛く思える。
勿論、俺より小さいからとかそんな嫌味じゃなく、好きだからそう見えるんだと思う。
口にしてないだけで、他の誰より格好良くも見えているのもその証拠。
俺みたいな図体のデカい男が真剣に男を格好良いって言っていても気持ち悪いだけだろうし。

「越野はやっぱり可愛いよ」
「は?」

自分に言い聞かせる様に呟いた言葉。
少し機嫌の悪そうな声を聞き流して、後ろから越野の首筋に口付けた。
ページを捲る音が止む。

「食べちゃいたいくらい好き」

舌先で撫でる様にしていたそこを強く吸い上げると赤い痕が残っていた。
無意識に。
越野はそんな言い訳が通じる相手じゃない、気付くと同時にすかさず身を離すけどもう遅く、前を向いたままの越野の頭が勢いも付き傾いて俺の頭に直撃。
所謂、頭突き。
元々の頭の距離が近かったのが救いで、衝撃はあったものの痛み自体は無い。
少し目眩がした頭を押さえていると、クルリと音が聞こえてきそうな感じに越野が振り向いた。
ぎしと軋むベッドの音。
近付いてきた越野の顔に驚いて後退ると壁に背が当たる。

「俺も、お前の事食いたいくらいには好き」

開かれた足の間に座られると、いつもと逆にある今の自分のポジションに違和感を覚えた。
細められた目。
上る口角。
楽しそうだなんて思ううちに越野の両手に取られた俺の左手は数を数える子どもみたいに一つ一つ指を畳まれていき、最後に残ったのは小指だけ。
薄く開かれた口にそれを含まれて、最初は優しく、優しく飴玉でも舐める様に舌が絡まる。
わざとらしく立てられた水音に変に興奮を掻き立てれて、中心が熱を持つのが分った。
分っている、分っているんだ。その上目で見てくる様もわざとだって。
だってほら、笑ってる。
いつもなら見るなと言いたげに歪む顔が楽しそうだ。
今までの反応だって嘘じゃなかった筈だけど、やっぱり越野だって男なんだ。
俺にやらされるのと自分からやるのは違う。
きっとこのタイミングを待っていたんだ。
今、反旗は翻された。

「こっちは後でな」

そう言って触れられた熱。
もうとっくに熱くなっていたそこは、越野に触れられただけでまだ熱さを増そうとさえする。
深く、根本まで咥えられた指。
舐め、唾液を絡ませ、吸われるそれは違うと分っていても俺の中心を疼かせるには充分だった。
気持ち良い。
部屋の中では抑え様にもそれをしきれずに漏れる吐息と唾液の立てる水音、それに俺達二人の体重にちょっとした動きだけで軋むベッドの音だけ。
今日までの行為以上に興奮しているなんて悟られたくは無いけど、それももう限界にきていた。
堪え切れずに出した小さな声。

「やっと出した」

強く歯を立てられて口を離された。
途端に恥ずかしさの様な気持ちと痛み。
血が滲むわけではないけど、そこにはしっかりと歯形が残っていた。
現実に引き戻された様な痛みにその跡を見ていると、またその手を取られて舌がそこを這い、合間に落とされる口付け。
その行為さえ愛しくて、痛みなんてどうでも良いと思える。
だから聞かせて、その声で、その響きで。

「越野、俺の事好き?」
「…指一本食ったくらいじゃ足りないくらいには好きだぜ」

その響きは酷く曖昧だけど、その笑顔は酷く猟奇的だけど、それでも愛しく感じるくらいに好きなんだ。
小指一本じゃ足りないなら、欲しいだけ俺をあげる。







疑似FがあったのでR-15にしてみました。
R指定は要らないんじゃないか、または18にしといた方が良い等アドバイスが有りましたら一言お願いします

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