□雨
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「それなら、しゃあないわな。別れたる」
「おう…」
「ぼくは理解ある男の子やさかいな、そりゃ確かに好きな女の子出来るまでって最初から言ってた言うててもそれ実行するんかいボケ!とか思っとらんから」
「いや、待て。明らか思っとるやろ」
「べっつにー」




―雨




外は雨、冬に差し掛かるこの時期に雨と風のダブルコンボは正直言ってキツい。
そんな中では当然ながら、用事も何も無いのに外に出る気にはなれず自分の部屋でゴロゴロしていた。
そんな時に鳴ったチャイム。
親は当然店の方に行っていて居ない。
何度も何度もウザいくらいに鳴るチャイム、このタイミングでこんな事をするアホは俺の知る限り一人。
やっぱりと言おうか、チャイムの主はこの雨でもへこたれんと来た土屋。
傘も差さずに。
いや、途中までは差していたのかもしれん…その手には、羽を支えるべき骨がバッキリ折れてしまった傘を持っていた。
お邪魔しますと言って笑う顔は、とてもではないが昨日好きな相手と別れた男のそれには見えない。
ウザいくらいに好きと告げる姿をずっと近くで見ていただけに、岸本からその話を聞いた時は心配にもなった…が、3分経つ前にそれも止めた。
それくらいで傷付く程やわな恋愛をしてたとも思っとらん。
とりあえず、この雨の申し子みたいな格好のまま俺の部屋に上げるのは胸糞悪いとタオルで滴る水を拭かせて風呂場に案内する。
大した体格も変らんと睨んで着替えに俺の適当な服を置いて、先に部屋に戻りベッドに横になった。

「ふぅー…」
「あー、着替え大丈夫そうやな」
「うん」

本を読み進めるうちに開かれた扉の向こうには湯気を漂わせた土屋。
服の方もサイズは問題無い様だと分かり、寝返りを打って背中を向けると扉の閉まる音がした。
近付いてくる足音に続く様に、軋むベッド。
同じ様に横になっているのは見なくても想像が付く。

「あんなぁ…昨日ぼくと岸本君別れたねん」
「岸本に聞いた」
「やっぱ?」

その声に気落ちした様子も感じられず尚も本に目を通すと、背中に土屋の指先が這うのを感じた。
こそばゆい。
土屋はそのまま昨日の経緯とやらを話を始めるも俺の背中の上で動かす手を止めようとせず、何かを書き続けた。
適当に聞き流し返していた相槌。
それをさせなくしたのは、指の動きだった。
のの字なんて失恋したての奴がしても許せる可愛らしいモンとは違う、まさにアホの象徴。
前々からそうじゃないかと思っていたが、土屋は天然記念物並のアホやと今確信した。
コイツの指が次々と生み出すモン。
自分の背中に生産されるパターンに富んだ大量のうんこが気にならん奴は居ない。
自然と本に向けていた意識は背中に集中し、それと同時に土屋の話も耳に入る様になった。

「酷いよなぁ、岸本君。あんなに好きや言うたぼくを利用するだけして要らんくなったらポポイのポイ!って」
「せやなぁ、悪人やで岸本」
「ぼく可哀相やろ?悪い男に捕まって」
「おーおー、可哀相になぁ。俺が慰めたる」
「南君…」

背中にまだまだうんこを工場製品もびっくりな勢いで生産されながら、二人で声に出して笑った。
そんな笑い声の中に再度聞こえたベッドの軋む音。
笑いを止めるとゴツと何かを叩く音がして、そのまま俺の頭に激しい痛みと同じゴツという音が響いた。

「痛いわ、何すんねん岸本!」
「やかましい、さっきから黙って聞いてりゃベラベラと」
「別に岸本が悪人って話してただけやろ、なー土屋?」
「なー?」

殴られた頭を抑えながら二人体を起こし、殴ってきた岸本に二人で野次を飛ばす。
土屋が来る1時間も前から来ていた岸本、俺も土屋もそれを知って普通に話していた。
岸本が先に居る以上、チャイムの連打をするのは土屋くらいしか居らん。
つーよりそれ以前に、岸本自身が言っていたのだ…昨日、土屋と明日俺の家でと言ってその場は解散したと。
結局別れたところで何かが変るなんて事は無い。
土屋はウザい程好きと言い、岸本はそれに疲れを感じて、俺はそれを見て時に土屋と手を組みからかう。
いつまでも野次を飛ばしていたら、もう一度殴られそうになったので土屋と二人やり返す事にし手にした油性ペン。
美術4の俺が悪人岸本の顔に素敵な絵を描いてやろう。
デザイナーは土屋で。

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