□てっぺん
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長い時間を一緒に居るとその境界が分からなくなる事がある。
それだけに目に見える結果なんてモンは、痛い程その境界を教えてくる。
よくやったと言うたった一言に込めた幾つもの感情。
俺は上手く笑えた、大丈夫。
そして戻って来たのは以前と何ら変らない日常。
IH優勝の誇りを手にして尚変らずに接してくるその姿は、優しく見えて酷く残酷だ。
俺等がまるで同じ物な様に錯覚させて、違う物だと見せ付ける。
このままで居たら、いつか、いつか潰される。
土屋が優勝を決めた日に生まれた、恨む事さえ出来ない俺自身に。




―てっぺん




気付けばもう11月。
あれから大分時間が経って、俺等は相も変わらんと一緒になってダラダラした休日を過ごしている。
卸売店で買ってきたまだ青い状態のミカンをテーブルの上に広げて、土屋と俺で向かい合って食べる。
真ん中には土屋がチラシを折って作ったクズ入れ。
岸本はまだ来ていない。
30分前に電話した時点で今起きたとぬかした、女と違って化粧も居らんしそろそろ着く頃か。
何にせよ、一人のうのう寝てたアホにやるミカンは俺ん家には無い。
アイツが来る前に今ここに有る分は全部食ったろうと話、二人で次々ミカンの皮を向いては大した味わう事も無く飲み込む。
青いわりに甘くて食いやすい。
気付くと土屋作のクズ入れの中は、ミカンの皮が山になっていた。

「てっぺんにミカン王設置、崇めよ皆の者ー」

意味の分からん事を言いながら、特に大きなミカンを山の上に置く土屋の姿が妙に笑えた。
その行動は一般的に見て長身の土屋がするにはシュール。
吹き出して笑う俺の姿に、ウケたウケた?と聞いてくる姿は本当に同い年かと聞きたくなる程ガキくさい。
はいはいと流して、土屋命名ミカン王を掴み皮を向く。
てっぺん…なぁ。
一番上から全てを見下ろすなんて、確かに王様かもしれん。
そう言った意味では、今目の前に居るコイツも…大した変らん。
俺等豊玉を敗った湘北に山王さえも敗れ歴史は変った。
当の湘北はその次には居なくなり、結果優勝を飾った大栄のキャプテン。
今現在、てっぺんに居るのはコイツ…。
俺と一緒んなってミカンを食ってるこの男。

「なぁ、土屋…てっぺん見て、何思った」

ミカン王の皮を綺麗に真ん中から半分に割りながら尋ねると、土屋はテーブルの上に頭を乗せうーんと唸り始めた。
悩んでる…様に見えるが、何処に悩む要素があるのか。
ただ単純に、優勝した時の気持ちを述べれば良いだけの事。
身ぐるみ剥したミカン王の白い筋を取りながらその様を見ていると、本気で考え込んでいるのか唸り声は止まず頭をさっきから揺らしている。
そのうちにピンピンピンピンピンポーンとウザい程に連打され鳴るチャイムが、岸本の到着を告げた。
丁度良く筋を取り終えたミカンを山のてっぺん改め玉座に置いて、岸本を迎える為に立ち上がった。
ドアノブに手を掛け開く音と、土屋の声が重なる。

「南君の言うてっぺんって…何なん?」

振り向けば見据えてくる土屋の目と合って、その言葉に拍子抜けすると同時に満足も出来た。
矛盾だと分っている。
それでも、土屋の言葉の意味は分った。
IH優勝がてっぺんじゃない、そんな事は俺だって知っていた。
それを忘れてたのは、そう、ずっと俺を潰そうとしていた物のせい。
共有する時間はまるで同じ様に過ごしながら、それでも俺等の上をいくコイツへの…コンプレックス。
歪んだ視界で捉えた世界は歪んでいて当然で、真直ぐな視界から捉えた答えに俺の視界は正された。
岸本のくせに良い奴に好かれたなと思うも、男な時点で土屋は俺の範囲外と自分の中で結論付けた。

「正直その答えは俺も分からん。あ、そのミカン食って良いで」

自分を潰そうとしていた物の正体を知り少しスッキリした俺は、玉座の上のミカンを指差し扉を閉めて玄関への道を歩む。
寒い風が進む先から吹いて、人ん家だと言うのに偉そうに歩き近付いてくる姿が見えた。

「勝手に上んなや」
「なら早出ろや」

くだらない言い合いをして、土屋がミカンを食って待っているであろう俺の部屋に戻る。
まだ玉座の上に居座るミカン王。
食って無かったのかと思えば、入って来た俺と岸本の姿を確認し土屋はそれを三つに分けて、一つずつ俺らが座るであろう場所の前に置く。
岸本にやらんつもりがパァんなった。
それでも今は気分が良い。
折角分けられたミカン、量は少なくなったが三人仲良くがん首揃えて頂くか。
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