□SNT
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―SNT




「大嫌い」
「俺は大好き」

越野と喧嘩をした。
喧嘩なんてそう珍しい事ではないけど、今日のそれは喧嘩と言うより越野が一方的に拗ねているだけで、それだけに余計に厄介だ。
切っ掛けも本当にくだらない事だけに越野は尚更に本気。
機嫌を直してほしいのに、俺はその手段を知らないし思い浮かぶ事さえ全く無い。
恋人としてより長い期間を友人として過ごしてきたけど、こんな姿を見せる様になってからは恋人になってから。
それもまだ三回目。
拗ねる理由は毎回違う。
だから、前はこの方法で機嫌を良くしたから…なんて事じゃ上手くはいかない。
そんなんじゃ俺が出来るのは、俺が思うままに行動する事だけ。

「大嫌い」
「でも俺は越野が大好き」

俺の部屋のベッドの上、壁の方を向いて横になる越野。
そのすぐ隣りで同じ様に横になって越野の背中を見つめている俺。
まずはお互いに違う物を見ている今の状況を壊そうと、越野の腹に腕を回して抱き寄せる。
抵抗されるわけでもなく、俺の腕の中に収まる。
これで見ている物は同じ、何も無い壁。
横になっているから視線の高さだって変らない、視界の共有は出来なくても同じ物は見られる。
対等。
まだ拗ねているらしくて、越野の手はさっきからずっと枕を引っ掻いたまま。
唇も少し尖ってる。
怒って居るなら、今こうして触らせてもくれない。
怒らせる事は何度もあった。
その分怒らせた時は自分がどうすれば良いかもだいたい想像が付くのに、これに関しては経験値不足。
言うなれば、レベル上げを殆どしないまま武器防具はそこそこ、なのに薬草は道具いっぱいで最初のダンジョンのボスに遭遇…って所で。
攻略は出来る、出来るけど大変、しかも俺はそのやり方にまだ気付いてない、そんな感じ。
本心じゃないと分ってたって、大嫌いなんて言われる度に胸にトゲが刺さるみたいに痛い。
だから、早く機嫌直せよ越野。

「大嫌い」
「越野が俺を嫌いでも、俺は越野が大大大好き」

腹に回していた腕を上げて、枕を引っ掻く越野の手に重ねる。
その途端に動きを止める俺のより小さな手。
自分からもっと身を寄せて、強く抱き締めると、その手は強く握られ拳を作るものだから、俺は重ねた手でその手を包む。
唇はもう尖っていない。
成功、したんだろうか。

「大好き」

まだ拗ねる様に、でもどこか恥ずかしそうに言う小さな声が届いて、嬉しくなった。
触れていた手でトントンと布団を叩くから離してほしいのだろうかとそっと離すと、反転して俺の方を向く越野の体。
少し前には重ねていただけの手を今度は越野から握られる。
予想外、戻るどころか良くなった。
チュッと音を立てる様に額に口付ける。

「俺も、越野が大好き」
「あぁ」

機嫌が良くなったのは良かった。
だけど、何が原因で良くなったのかまでは分らない。
ボスは倒したのに、俺は経験値を得る事は出来なかった。
次回があると思えば、これはこれで厄介かもしれない。









タイトルは越野の台詞から^^
サマーでナイトなタウンである


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