□積雪記念
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寝返りを打つと、そこにあるべき温もりが無くて一気に目が覚めた。
いつの間に抜け出したのかも分らない。
特に疲れていたわけでもないのに、だ。
本来なら信長が寝て居るはずの場所を触るとそこはすっかり冷えていて、信長が居なくなってから暫くの時間が経っている事を俺に伝えた。
時計を確認すると時間は3時を回っている。
よく見ると壁に掛けていた信長のダウンジャケットも無くなっていた。
何処になんて考えてるだけの余裕は無い。
寝間着姿のままコートを羽織り部屋を飛び出した。
手にはマフラー。
玄関でマフラーを巻いた後に靴を確認したけど、そこにも信長の物は見当たらない。
消えてしまったみたいだなんて考えが浮かんで、頭を振ってそれを自分の中から放り出した。
不安ばかり押し寄せてくる中で外に飛び出ると、いつの間にか積もっていた雪でそこは銀世界。
今は降っていない、俺が寝て居る間に積もったんだ。
外に点々と残る足跡に、消えたわけでは無いと知る。
その足跡を辿る。
白く続く道の中、不思議なくらいに他の物は何も無い。
信長が付けた足跡だけが続く。
それを追っているうちに気付いた銀色の中に残る面影は、俺が毎日見ている物だった。
そうだ、この道は。

「学校…?」

案の定白い道に浮かび上がる俺を導く目印は学校に続いていて、僅かに開いた校門を抜けたそれは俺の慣れ親しんだ場所に向かっていた。
体育館に。
まだその足跡を追って行くと、体育館の周りに並ぶ小さな雪ダルマが目に入る。
何個も、何個も。
ずらっと並ぶその先に、尚も雪玉を握る姿を見付けた。
鼻の頭まで真っ赤にして、それでも楽しそうに笑い小さい雪ダルマをまだ作っている。
端から一つずつ数えながら近付いて行く。
余程真剣なのか、気付く気配は全く無い。

「ノブ、こんな時間に抜け出して何してるの」
「…!神さん!丁度良かった、ちょっと手伝って下さいよ」
「は?」

俺に気付いて一旦は止まった手もまたすぐに動きだして、ギュッギュッと雪玉を握りながら俺を見上げてくる。

「このサイズ4個と一回りデカいの1個、それとまだデカいの1個の計6個で完成なんですって!だから、お願いします!」
「え、あ…うん?うん」

いまいち理由も何も分らないまま、必死な様子に押され手伝う事になった。
信長の真似をして、似た様なサイズの雪玉を握る。
一個握るだけでも相当手が冷えて、俺の手が赤くなるのは本当にすぐだった。
よくよく見ると信長の手も鼻以上に真っ赤。
雪玉一個でこれじゃあ、これだけの数の雪ダルマを作るのは大変だっただろう。
もう手は痛くたっておかしくないのに、止める事なく…楽しそうに続ける姿に俺も負けじと雪ダルマを作る。
続ける程楽しくなってきて、早くも他と同じサイズの4個は完成した。
今度は一回り大きいのを俺が体、信長が頭と一つずつ雪を丸く握る。
重ね合わせて出来たそれを他と同じ様に並べると、それは何かを思い出させる。
それが何かは分らないけど、何となく思うだけで温かい。
まだグラウンドに雪が残っているからと、最後の一つは大きめに作る事に決めた。
担当はジャンケンに勝った信長が大きい体、負けた俺が頭。
お互い一つだけ雪玉を作って、グラウンドでそれを転がす。
小さかったそれは少しずつ大きくなっていく。
周りの雪を巻き込んで大きな雪玉になるそれは、個人が集まりチームになっている俺達みたいだ。

「神さーん!こっち出来ましたけど、そっちどうっすかー?」
「こっちももう良いよー」

グラウンドの中、少し離れた位置に居る俺達のやり取りは自然と大きくなる。
大分大きくなったそれを体育館の前まで押して行き、一回り小さい雪ダルマの横…丁度、体育館の入口のすぐ脇に信長の作った方が置かれた。
少しだけ小さい俺のを二人がかりで持ち上げて重ねると、それはもう立派な雪ダルマ。
完成ー!と嬉しそうに言う信長につられて自然と口元が綻びて笑顔になった。
改めてみると、凄い数。
結局何個になったんだか…。

「手伝ってくれて有難うございます、海南バスケ部雪ダルマが完成出来たのは神さんのおかげっすよ!」

最後に作った大きいのから順に、これが監督…これが牧さん、高砂さん、武藤さん…と部員一人一人の名前が続く。
名前を言いながら一つ一つ指差し歩く信長の後をついて歩くと、俺の名前もあって、それは他のより少しだけ隣りの雪ダルマに近い。
続けて指差した俺の隣りの雪ダルマを、これが俺!なんて言う信長は耳が赤い。
寒いからだけじゃないって思いたいなと、冷えた手を信長のそれに重ね握り締めた。




―積雪記念




翌朝、二人で学校に来ると体育館の前が騒がしい。
まぁ当然かと思いながらも騒ぎの中心へ向かおうとすると、牧さんが近付いてきて部員+監督と同じ数だけある不思議な雪ダルマの話を聞かせてくれた。
自然と顔が向き合い零れた笑み。

「二人だけの秘密にしようか」
「はい!」

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