□キスを君に
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「あ?何やこれ」

突然の雨に濡れた帰り道、このまま待てば止む気配を見せるそれに岸本は南宅での雨宿りを決めた。
タオルに着替え、シャワーと遠慮無く借りられるのも長い期間をかけて築かれた二人の仲あってこそ。
そのシャワーの最中、ふと岸本の目は自分の体の一点に止まる。
右足、甲。
打った覚えの無いその場所に浮かぶ痣。
パッと見て比較的新しい物である事は分るが、いつ、何が原因か迄は分らない。
痛みは無いのだから良いと気にする事をやめ、体に染み付いた雨の臭いを落とし岸本はシャワーから流れ出る湯を止めた。




―キスを君に




「はぁ?信じられんわ」

先にシャワーを浴びた南の待つ部屋へ行くと、当の南は電話中。
慣れきったその場に一人放り出されても困る事は無く、岸本は適当な本を手に取りパラパラとページを捲る。
が、その直後おいと電話中の南に呼ばれ一行も読む事なく本は閉じられた。
南からの珍しい手招きに面倒臭さを感じながらも近くと、その場に座る様促される。
むんずと掴まれた右足、南の視線は先程のシャワーの際に見付けた甲の痣一点を見つめている。

「あー、土屋。今確認した、よう出来たな」
『そりゃぼく岸本君愛しとるもん』

いきなり手離された足はそのまま落下するが、突然の事ながらも何とか足と床とのお友達は避けられた。
南の電話の相手は土屋。
岸本は土屋がこの痣に関わっている事を、南の言葉から理解する。
だが、それに対する電話向こうの土屋の言葉までは聞こえない。
そうなってくると気にもなるもので、何とか聞く事は出来ないものかと南に近付くも、それは南の手によって拒まれた。
しかし近付かなければ聞けはしない。
俺にも聞かせんかい、なんて少し低めの声で脅した所で何年も前から互いを知る相手に通用はしな南は岸本を一瞥し鼻で笑いこそすれ、それ以上はせず聞き流す。
岸本にはそれが限界だった。
無理をしようものなら、雨の中だろうが気にせず外にほっぽり出すのが南だと岸本は理解している。
今そんな事をされては、そもそも今南宅に寄った事さえ無意味になる。

「で、何でよりにもよって足なん。岸本、水虫有りそうやん。俺なら絶対やらんで」
「無いわ!」
『今岸本君の声聞こえたー』
「あぁ、アホが喚いとる。で、何で足」
『いや、地に立つにも歩くにも足って必要やん?で、どっちも日常生活で絶対する事やなーなんて。なら足にぼくのって印付けとけば、丸まんまぼくのモン気分になれるかな、って。乙女っぽくて可愛え理由やろ?』

またも岸本を見る南。
土屋の言葉が聞こえていない岸本にその視線の意味は分からず、何やねんと悪態付き、既に聞く事を諦めて先程まで座っていた場所へと戻りそこに置いたままの本を手にする。
電話に向かいながらも自分へ向けられたままの視線を出来るだけ気にしない様に、気にしない様にと自分に言い聞かせながら本を読み進めた。
二人の電話が終わったのは、岸本が本を手にして10分程度時間が経ってから。
南は本に夢中になり、それに気付かない相手へと合図代わりに枕を投げ付けた。
枕はそのまま顔に命中。
それに気付かぬ筈も無く上がる岸本の顔。
自分に何があったのかも理解出来ずに目を見開いている男に、南は一言呟く様に漏らした。

「愛されとんなぁ…」

勿論、二人の会話を理解していない岸本は益々混乱するばかりだった。







キスシリーズ第一弾。足にキスってかなり好きです

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