□キスを君に
1ページ/1ページ

付き合い始めて一週間。
手は結構すぐ繋げた、つっても繋ぐタイミング自体あまり無いから一回だけだけど。
俺にしては良いテンポだと思っているけど…これ以上先に進んで良いのかが今の悩み。
キスって、付き合って一週間やそこらでして良いモンじゃない、よな?




―キスを君に




「宮城、お前いつまで待たせんだよ」

アヤちゃんが熱に倒れて、せめて出来る事だけでもと代わりにやってみると思った以上に大変で、部活が終わって早くも一時間が経っていた。
それに気付いたのは、こうして三井さんに声を掛けられ時計を見た今。
残るは今日の記録を纏めるだけ、10分もあれば終わる。
最初から手伝ってくれるとは思って無かったけど、三井さんはやっぱり手伝ってはくれなかった。
期待はしてなかったから良いんだ、うん。

「あと5分くらいで終りますから」
「それじゃねって」
「はい?」

部活の間にヤスが簡単に纏めていてくれたのは助かった。
俺が思っていたより早く帰れる。
ペンを走らせ、目はそのペン先を追う。
顔を上げる事無く返事をすれば、以外と言うか、何を示すか分らない言葉に一端手を止める。
が、言葉が返ってくる事は無い。
また手を動かし文字を綴る、その間に俺達は一言も話す事は無かった。
宣言通りに5分で終えたそれに、一日の達成感を覚えてふぅと息を吐き出す。
今になって上げた顔。
いつから…もしかしたら、最初からそうしていたのか、俺を見据える三井さんと目が合う。
何?と聞くと、またさっきと同じ言葉。
いつまで待たせるのかと言われたところで、その示す物が分らなければ答え様が無い。
さっき言われた通り今この状態を差すのでないなら何だと言うんだ。
えーっと…と困り果て頭を掻くと、盛大に溜息を吐かれた。
いやいや、どう考えてもハッキリしないアンタに問題があんだろ。
とは思っても口にしない、機嫌を損ねると後が大変だ。
いつまでも悩む俺に痺れを切らせたのか、胸元を掴まれる。

「キスまで進むのに、どんだけ待たせんだって聞いてんだよ俺は!」

言葉が終わった途端にパッと離された手。
それ以上に気になるのは、向けられた背と隠しきれてない赤くなった耳。
更に気になるのは、言われた言葉。
俺一人で悶々と考え続けてるだけかと思ってたけど、そうではなかったみたいだ。
向けられた背に自分の体を寄せて、腕を回す。
俺の身長じゃあ抱き付いてる様になるのは悔しいけど、この際それは気にしない。
これはチャンス。
間違なくチャンス。
今しなかったら絶対にするタイミングを逃して一ヶ月は過ぎる。
そんな情けない予感がする。
だから、ここは逃さない。

「待たせちまってすんません…その、キス、させて下さい」

要領の悪い奴だ何だと言いながら振り向き、目を閉じる三井さんの顔はまだ赤い。
肩に手を置くとガッチガチにかたくて、緊張してるのが伝わってきた。
それに気付いて伝染する緊張。
改めてやるってなると俺の方が恥ずかしくなった。
三回繰り返した深呼吸。
よし、と自分に気合いを入れて踵を上げる。
少しずつ、少しずつ近付いてきた顔。
その距離、残り5cm。
そして、触れた唇。

「今はまだ、そこで勘弁して下さい」

口が触れた先は、三井さんのそれではなくその近くの傷跡。
情けなくたって良い。
恥ずかしさが勝った、それだけだ。
口じゃなくたって俺にしては進歩だ、進歩。
体を離すと、顔真っ赤…と指を差して笑われる。
ねぇ、三井。
そうやって笑うアンタの顔も、俺と同じくらい真っ赤だよ。
なんて、やっぱり言わない。







キスシリーズ第二弾。ヘタレ良いよ、ヘタレ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ