□キスを君に
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ウザい。
ウザい、ウザい、ウザい。
何でこんな事になってんだよ。
アイツか、アイツの仕業か。
そうとしか考えられねぇ…何て事してくれやがった、仙道の奴!




―キスを君に




最近、バスケ部の奴等の間で変な噂が流れている。
俺の頬が柔らかい。
明らかそのせいだろう、最近になって必要以上に触ってくる奴が増えて正直かなりウザい。
1、3年はまだ良い。
少なからず遠慮があるし、断りも入れる。
問題は二年。
いきなり宣言も無しにベタベタベタベタ触りまくった挙げ句、自分が満足すると謝罪さえしないで立ち去る。
最初のうちは俺の耳にも噂は届いておらず、触られた直後は放心状態になってたが今は違う。
払い除けもするし文句の一つも返せる。
今更かって話だけど、ようやく慣れて来たんだ。
そんな頃になって、俺の考えの斜め上をいく発言をする男が一人。

「噂通りだ、越野のほっぺた柔らかー」

断わりも無くベタベタと触ってきたのは、2年、仙道。
早々に払い除けてしまおうとした俺の手も思わず止まる。

「は?それ言い出したのお前じゃねぇの?」
「え?違う違う!俺も最近聞いたからこうして今更触ってるんだし」
そう言われて考えれば、仙道は一瞬触れるだけって事ばっかりでこうして必要以上に触って来るのは初めてだ。
それでもウザいには変らないからとりあえず払う。
が、それくらいで諦める事は無くて俺に向けまた手を伸ばしてくる仙道。
互いにそれを払う、触るの繰り返し。
流石に拉致があかないと、今度は伸びてきた手を掴むと仙道から、あ!、なんて声が零れてきた。
悔しそうにちぇっと呟く姿に勝利を悟ればちょっとした満足感。

「ギブ、この手離して。もう触んねーから」
「よろしい」

仙道の口からのギブアップの声に手を離すと、何かぶつぶつと文句を言ってるみたいだったが聞き流す。
これ以上アホの相手をしてられるか。
でもまぁ、これで殆どの奴が触ってったしそろそろこの流れもおさまるだろ。
誰が流したのかが最後の最後になって謎になっちまったけど、今の状況と噂が廃れてさえくれればこの際それは気にしない。
そんな事を一人考えていれば、越野、と俺の名前を呼ぶ声。
顔を上げるといつの間に復活したのか仙道の笑顔が目に入った。
それは言うなれば、小さい子がする様な…何とも言えない笑顔。
その笑顔の意味が理解出来ていない俺の頬に触れる柔らかい物。
近い顔。
何があったのかなんて分る、そうだ、それしか無い。

「何してんだ、馬鹿が!」

口と同時に飛び出していた右の拳はそのまま仙道の頬に綺麗にハマった。
殴られた左頬を押さえ、よろける姿を助けてなんかやるもんか。

「触ってるうちに美味しそうに見えてきたから、ちょっと味見を…」
「そうかそうか、よく分った。あと三発は殴ってやるから、ちょっとそこに歯食いしばって立ってろ」

握り締めな拳を左の手の平に軽く打ち付けるとパンッと乾いた音がした。
今の気分はDVに走る駄目な大人の気分…だな、コイツは殴らなきゃ理解しないらしい。
………あぁ、そうだ、それより良い方法があるじゃねぇか。
笑って誤魔化そうとする仙道を前に拳を下ろすと、仙道は分かりやすい程の安心を顔に出す。
今はそうしてろ。
目には目を、歯には歯を…ってな。
同じ目に会えば少しは考えも変るだろ。
まずは一年からだな。
アイツ、一年人気半端ねぇし。




そして数日後、俺が流し返した仙道の話は部内に浸透し俺の噂はすっかり霞んでいた。
その代わりに学年問わず頬を撫で回される仙道の姿が見れて、心の底からざまあみろと思いはしたが口にはしないでおいた。







キスシリーズ第三弾。定番頬ちゅうを限り無くくだらなく

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