□キスを君に
1ページ/1ページ

―キスを君に




「そう言や、お前ってあんま見える所にキスマーク付けねぇのな」
「……付けてほしいの?」

脱ぎ散らかした服を見ながら、互いに背を向け合う様に布団の上に寝転がる水戸に声を掛けた。
それは別にそれを望むからじゃあない、むしろ遠慮してぇ。
まさか、と軽く鼻で笑ってやる。
それを言ったのは、何となく思い出した今日見たクラスの女子の首もと。
制服では隠れる事無いそこで、白く細い首に浮かぶその赤い点が印象強くて覚えていた。
キスマークなんて言われるだけはあって、それは確かに男がいると知らせる印。
殴られた時に付く痣と同じ内出血でしかない筈なのに、付け方一つで扱いが随分と違っておもしれー。

「見える所に付けるとか…ガキくせぇよな、なんか」

それを二つも下のコイツに言うのはどうだ、って話だけど…コイツの場合、どうも下って感じがしねぇんだから仕方無い。
暫く無い返事に、応える程でも無く聞き流したんだろうと思っていると、でも、と俺の言葉を打ち消す言葉。
横目に天井を見れば水戸の吹かした煙で白くぼやけて見える。
わざわざ起きてまで換気する気にもなれずに放置。
今急いでする様な事でも無い。
それにしても珍しい、いつもなら俺のここまで適当な言葉なんて二、三言交わすかそうでないうちに早々に打ち切られる。
それは水戸からの時もあれば、話を持ち掛けた俺からの時もある。
それ以上話しを引き伸ばす必要も無かったり、話すのが面倒になったりと俺からの理由はだいたいそんなモン。
多分水戸からのそれも、そんな変わらねぇだろう。
それが今日はわざわざ否定。

「見える所に付けるなんて、可愛いと思うけど」

後ろで寝返りを打ったのが分った。
途端に背中に感じた視線に気まずく俺も振り向こうとすれば、腹に回された手が俺の行動に制限をかけてそれを邪魔する。
首に触れてきた水戸の髪が擽ったくて肩を揺らすと、そんな肩に僅かな体温。
埋められたのは、顔。
少し乾いた唇が触れているのが分る。
いつもより長いそれ。
まさか、と思い腹に回された手を何度も叩くが、離される気配は全く無い。
自分で無理矢理離してやろうじゃねぇかと掴んでみれば、余計に力を入れられる。
それでも肩に触れた感触はそのまま。

「付けんな、マジ付けんな!!そこじゃあユニの時に見えんだろ!」

無理矢理離すのを諦めて手の甲を摘み力を入れればようやく口と手が離される。
やっと自由になった体に慌てて身を起こしまだ寝転がったままの水戸を見下ろせば、何も無かったかの様に笑顔を見せた。

「付けて無いよ」

トントンと自分の肩を叩く姿に、少し前までそれの触れていた場所を見れば有る筈の赤い痕は影一つ無い。
ただ口付けてただけ。
そう言って笑う顔が妙に腹立たしくて手を握り締めるて拳を作ると、水戸も俺と同じ様に起き上りその手を俺のより小さなその手で重ね包んできた。
殴りたくなる程落ち着いた態度、ごめんと謝った所で誰が許すか、くそっ。
少しデカめの内出血させてやろうか、そう思った瞬間に拳に与えられ始めた力に認めたく無い負けの気配を感じて、今日のところは諦めた。
あくまでも諦めただけ。
…認めてたまるか。







キスシリーズ第五弾。キスマークも内出血と思うと色気が無い罠。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ