□キスを君に
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―キスを君に




「ん……朝、か?」

目を開けるとカーテンの隙間からうっすらと光が漏れていた。
時間を確認すると、目覚ましが鳴るにもまだ2時間はある。
昨日は気付いた時には寝てしまっていて、そのまま起きる事なく今に至る。
体を起こさずに寝返りを打つと、すぐ目の前に神さんの顔。
神さんの顔なんて見慣れてるのに、今日のその顔は全然そんな気がしない。
こうして見ると長い睫毛が余計にそう見える。
長ぇ…なんて呟きながらマジマジと見つめる、起きろ起きろと願いながら。
だけどそんな事だけで起きるわけがない。
神さんの寝起きは…寝起きは………あれ?
俺、神さんの寝起き知らない。
そうだそうだ、そうだった。
一緒に寝た事は何度もあったけど、いつも俺が先に寝て後に起きるから、寝起きどころか寝顔さえ知らない。
今日初めて見たんだから見慣れてなくて当然だ、俺が知ってるのは起きてる時の神さんの顔だけ。
初めて見た神さんの寝顔。
元々そうだけど、本当に女の子みたいで…

「可愛い」

すぅすぅと寝息を立てる姿は、細いし白いし可愛いしの三拍子で守りたくなりそうな雰囲気を感じる。
ただ少し綺麗過ぎて、作り物にも見える。
そっと伸ばした手は白い頬に触れた。
手の平から伝わってくる温もりは確かに生を感じさせてくれて、安心する。
もっと近くで見たくて少し顔を近付けるだけのつもりでいたのに体が勝手に動いていて、俺は神さんの瞼に一度だけ口付けてしまっていた。
そんな事するつもりじゃなかった、マジで。
まるで吸い込まれるみたいに、引きつけられるみたいに気付いた時にはもうそれをした後。
んっ…と小さく漏れた声に起こしてしまったのかとドキッとするけど、その様子も無いみたいで安心する。
寄せられた眉に、触られるのが嫌だったのかなんて考えが見当外れも良い所だと俺に知らせたのは腰に回された腕。
引き寄せられて、俺の胸に自分の顔を押し付けてくる神さんが子どもみたいでやっぱり可愛い。
ふわりと漂ってきた良い匂いが心地よい。
シャンプーの匂いだ。
立ったままじゃ俺が神さんの髪の香りに気付く事なんてまず無い。
それだけに、今の体勢は嬉しい。

「良い匂い…」

短い髪に顔を寄せて頭を抱き締めると、神さんの香りが俺を包んだ。
甘いけどキツくない匂いは安心感を与える。
そのせいなのか、覚めたと思っていた眠気がまた俺を襲い瞼を下げ様としてくる。
何とか瞼を上げて時計を見てみたけど、俺が起きてから時間はそう経っていない。
今ならまだ約二時間は寝られる。
神さんが俺を捕らえている以上起きてたって何かが出来るわけじゃないんだ。
それなら、残りの二時間は甘い香りに包まれて寝よう。
寝過ぎだって良い。
今はただ、この香りの中で神さんの体温を感じていたいから。

「おやすみなさい」

自分が俺にしている事さえ知らずに寝息を立て続け神さんにそっと呟いて、俺は限界を迎えていた瞼を落とした。







キスシリーズ第六弾。魅惑の寝顔

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