□VD
2ページ/6ページ

「お、居た居た。おい、鉄男ー」
「…ん?」

三井さんに連れ回された一日。
うちのバスケ部の奴等や水戸くらいならまぁ予想も付いてたし、本人もその行為よりもそれによって期待の深まる一か月先の事に重点を置いてる様だった。
だけど、まさかコイツを探すのを手伝わされるとは。
三井さんらしいと言えばらしいけど、ラッピングさえされていない板チョコをコンビニの袋から取り出して件の男に手渡す。
義理とは言え、好きな相手が別な男にチョコを渡してる姿なんて見ていて良い気はしない。
そして更に気に掛かる事。
今までは一人一枚だったと言うのに、今に限っては二枚。
そこに特別な意味があるなら見たくなかった。

「二枚?」
「それ一枚は竜にも渡しとけよ。アイツ、欲しがるくせに自分からはぜってー取りに来ねぇから」
「あぁ」

納得した様子で受け取る姿に、入り込めない空気があった。
それは俺が知る事の出来ない時間が作り出した物なんだろう。
益々気が滅入る俺をそのままに、二輪のエンジンが立てる音は遠ざかっていった。
そう言えば、俺は貰ってさえいない。

「なにシケた面してんだよ」

頭の上にいきなり触れたのは手なんて物じゃなくて、硬く平面的な物。
顔を上げればいきなり掴まれた手に、その正体を押し付けられる。
小さな四角いそれは赤い包装紙とリボンでラッピングされていて、まさかなんて期待と混乱に言葉が出ない。

「べ、別にお前の為に作ってやったとかじゃねーからな!ただたまたまレシピがあって、たまたま手作り用のチョコが冷蔵庫ん中にあって、たまたまコンビニで買った板チョコが足りなかっただけだからな。勘違いすんじゃねぇぞ」

早口で捲し立てる様に言うわりに目は合せてもくれなくて、それでも赤いその顔が真実なんじゃないかって、期待するのは悪くない筈だ。
もっとも、こんな物を貰った以上は来月のお返しが大変だろうけど。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ