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「応援に行ったのにまさか本当に負けるとはな…その上、こっちは待ってたっつーのに自分から待ってろの一言さえない」
次に顔を合わせた昼休み、初めて二人で来た学食で向かい合う様に座って一番最初に出た言葉はそれだった。
何の因果か、俺達二人の前にあるのはまたうどん。
因みに越野がキツネで俺が月見。
試合の結果は置いといて、待たせた事に対する不甲斐無さに俺は顔をあげられずどんぶりの中に浮かぶ目玉とお見合中。
パキッと割り箸を割る音がして、チラッと越野を見ると湯気のたったうどんズルッズルと食べていた。
男らしい。
「なんてな。良かった、すげー良かった。久し振りに見た生の試合があの試合で本当に良かったって、素直に思える」
越野は俺の気持ちの操作が上手い、必ず元気になれる言葉をくれるんだ。
頑張れは言わないけど、頑張ったなは言う越野。
でも、負けた相手には言わない。
それを知ったのは去年の体育祭の時、同じクラスだったからこそだけど、惜しくも総合2位だった俺達のクラスの皆が頑張ったよなと言っている中で、越野は頑張ったなとは言わなかった。
なんで?と越野本人にお昼を食べながら聞いた事がある。
頑張ったって声を掛けると、実力の限界がそこなんだって言ってるみたいで嫌なんだとか。
もしかしたらって可能性さえ否定するみたいだ、って。
更に言えば、じゃあ他の奴は誰も頑張ってないのかよって思わされて、その相手を貶める発言になりそうな気がしているらしい。
そんな考え方は初めて聞いたから上手くは言い返せなかったけど、気付いた時には俺も口にする事が減っていた気がする。
だから今日の言葉も、頑張ったって言ってそこで終わるんじゃなくて、あれだけ良い試合を見せたんだから前を見ろって事なんだと思う。
越野の言葉は深くて、考えさせられる事が多い。
男の俺が見てそんな越野はカッコ良いと思う事だってある…言い終わってすぐにうどんを食べる姿を見なければだけど。
「何見てんだよ…たく、半分だけだからな。良いモン見せてくれた礼」
そう言って俺のどんぶりの中に増えた半分の揚げ。
「あ、でも待たせた話は別な。次に部活休みな放課後はその分付き合えよ」
汁までしっかり飲み干すところは、やっぱり女の子らしくは無いよなと少し冷めてきたうどんを噛みながら越野の姿を見ていた。


****


次に部活の休みな放課後付き合え、そう言ったのは越野の方だった。
今にして思えばこれはもしかして、久し振り…むしろ、付き合ってからは初めてな気がする。
付き合う前にはクリスマスとか初詣でとかは行ってたけど、友達としてと恋人としてなら気持ちは変る…と、思ってる。
越野がそこまで考えてるかは別として。
で、以外と早くチャンスは巡ってくるもので水曜の放課後に、金土は休みと言われた。
昼休みに遊んでた3年がどうやったのかは知らないけど、体育用具室の扉を壊したらしくて修繕がてら清掃も入るらしい。
勿論木曜のうちにそれを伝えて、俺と越野は金曜の今日、今からデート。
……デート!
その上、冗談で言ったのに、すんなり越野が了承したものだから初の泊まり。
初詣でに行く時に自宅まで迎えに行ってて越野の親とも面識はある、それが良い方に転んだのか俺の所ならと越野のお母さんにまで了承を得た。
今はあの時と関係も変っているけど。
健全な男代表としてはそりゃあアレな想像なんかもした。
だけど自分で決めた事は守りたいし、何より信じて許してくれたお母さんを裏切りたくは無い。
「悪い、掃除長引いた」
越野の教室の前で待っていた俺に、鞄を持った越野がやってきた。
越野相手なら待つ時間すら楽しかったよなんて恥ずかしい事を口に出したら機嫌を損ねそうだし、良いよと軽く返しておく。
一緒の掃除当番だったんだろう、去年越野を迎えに行った教室で見た女の子の一人に二人で手を振ってその場から立ち去る。
「で、何処に付き合えば良いの?」
「ゲーセン」
もう色気の無さはこの際諦めた、色気のある子が好きで越野と付き合う子はなかなかいない。
ここでゲーセンなんて言っちゃうところも越野らしくて可愛いんだと言い聞かせて、越野の案内するまま向った。
中は結構広くて、俺が暫く来ない間に知らないゲームや好きなゲームの続編と増えていた。
入学当初から越野とはゲームの話なんかもしてたけど、もっぱら家庭用の話でアーケードの方までは話していない。
だから、今日も何を求めて来たのか俺は知らない。
「何やりに来たの?」
「こっちこっち」
楽しそうに鼻歌なんて歌いながら足を進める越野。
越野の進む先の方を見ると、バスケのシュートの本数を競う、他に比べて大きめのゲーム。ゲーセンに来てもバスケなんて、1年も溜め込んでた分俺以上にバスケバカ。
少しずつ近付いていくと、4つ連なったそれの奥の1つで実際にプレイ中の男女が一組居た。
やっているのは女の子の方。
それにしても、どこかで見た事ある様な…。
「上手いね、アヤちゃん」
「ふふっ、そうでしょ」
あ、湘北の宮城とマネージャー。
この間の試合を見ていた越野もすぐに気付いたらしく、俺の腹を軽く肘打つ。
そんなうちに、あちらさんも気付いたらしくて声を掛けられた。
マネージャーの方が俺と一緒に居た越野に気付いて、越野を見る。
「あら?もしかして、デート?」
「そう言うそっちは…」
「リョータが一回やってみろって言うから一緒に来ただけで、こっちはそんなんじゃないわよ」
「え…アヤ、ちゃん?」
やばっ、宮城の地雷踏んだ。
片想い期間が長かっただけに気持ちはちょっとなら分る。
そんな空気を壊そうと、折角台も4つある事だし一緒にやらないかと提案した。
それに最初に食い付いたのは越野。
それまで黙っていただけに意表をつかれたんだろう、二人はそんな越野の姿を見た後、二人で顔を合せて笑いそれは楽しそうだと良い返事。
結局宮城の提案から二人一組で合計の多い方が勝ちと言う流れになって、運から始めて公平にとグッパーで分れた。
組み合わせは俺と湘北マネージャー、越野と宮城。
全員で100円玉を投入して、スタート。
「…負けた」
「仙道の身長がそもそも反則だよなー、宮城」
「そうそう、もっと俺らにあった身長なら兎も角なぁ、越野」
買ったのはこっち。
実際の物より低い分、俺の身長で入れるのは予想以上に簡単だった。
そのせいなのか何なのか、終わる頃にはすっかり仲良くなってた越野達。
仲良くなる一番の方法は共通の敵を持つ事だけど、こんな事で敵扱いされてもなぁ。
俺には何も言えなくて頬を掻いていると、慣れた様にマネージャーが二人を宥めてくれた。
有難い。
結局、その後も組み合わせを変えたりしながら夕暮れ時まで湘北の二人を含めて遊んでいた。
楽しかったと告げて別れる。
来た時と同じ、二人きりの道。
夕暮れに海がオレンジに染まるのを眺めていると、同じ様に越野もそれを見ているらしく、会話らしい会話は殆ど無いまま俺の家へ到着。
一日で随分と片付けた。
少なくとも、越野が初めて俺の家を訪ねた日よりはずっと綺麗。
昨日のうちに買ってきて置いた材料を冷蔵庫から取り出して、越野にシャワーを浴びる様に言った。
さっきのゲームで熱くなり過ぎた俺達はこの夏の暑さもあって汗がひどい。
俺が調理している間待っているだけの越野も暇だろうし、それが通じたのか越野もそうする事にした。
簡単に使い方の説明だけをして、俺は調理開始。
ガチャと音がして、突然脱衣所の扉が開いた。
セーラーだけを脱いだ、越野の貴重なキャミソール…なんて言える程可愛げなデザインではない、タンクトップ姿の越野。
「悪い仙道。鞄中に風呂道具一式入ってるから、それ取って」
言われるままに鞄の中からそれらしき包みを取って渡すと、サンキュと一言残してまた扉は閉められた。
越野…胸ちょっと大きくなったかな。
なんて思っても口に出さずに思うだけにして、調理を再開。
包丁を扱う間、少しだけ見えた谷間を思い出しては消し思い出しては消してと繰り返す。
こんなんで今晩大丈夫なのか、俺。
ハァと重い溜め息を吐いた時、扉がまた開き中からまた姿を見せた越野。
シャワーを浴びたにしては早い。
それに、さっき脱いだはずの制服を来てる。
何より表情が何て言うか、怯えた様な…そんな雰囲気。
「ご、ごめん。今日は帰るな…」
どうしたのと尋ねる筈だった俺の声はかき消され、越野はそれ以上俺に何か言うわけでも無く何かから逃げる様に荷物を抱えて俺の部屋を飛び出して行った。
何があったのか理解出来ていない俺は、ただその後ろ姿を見ているだけだった。


続く

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