□ASOL
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「お、今日も来てるぜ」

卒業を控えた1月半ば、高野達3年は2月にはもう授業も無くなる学校へ来るのは卒業式の練習をする2月後半の数日間だけとなる。
そんなある日の放課後。
掃除当番の花形を待つ為教室に残っていた藤真が窓から外を見れば、校門の影から中の様子を伺う男が一人。
高野より僅かに小さい程度の長身の男は整った顔立ちや目立つ身長もながら、その場に唯一ともいえる姿が人目を集めていた。
学ランにマフラー。
コートでも羽織ればまた変わると言うのにそれをせず、故に寒さを堪えきれず身を小さくしている。

「行ってやんねーの?」
「誰が行くかっ!!」




―マイペース・ナイト




「よう、流川。今日も愛しのハニーのお迎えか」
「…っす」

花形の掃除も終り、5人が外へ出たのはあれから10分程経ってから。
それでもまだ校門の前で人目を集めつつ待っていた流川。
それに藤真がからかう様に話しかければ、無口ながらも頷き返す。
一般的に見て長身と呼ばれる流川もこのメンツに囲まれては小さく思える。
流川がこうして翔陽へと来る様になってからは長く、藤真達もすっかりと慣れ親しげに話す。
そんな中、一人明らかなまでの不満顔を見せる男が一人。
普段は必要以上に絡みにいきウザいとさえ言われている筈の男、高野。
流川はそんな表情を見ても気にする事なく高野へ近付き手を取る。
高野がそれを離そうと手を強く振るが強く握られたそれは離れようとはしない。

「離せっ!!」
「嫌っす」
「なんで!」

二人のその姿を見ての反応もまた一人一人違う。
藤真は笑い、永野は高野が我慢出来ず暴力沙汰にならないかを不安がり、花形は見守り、長谷川にいたっては帰りの牛丼屋の事しか考えず視線も遠くを見つめるだけだ。
そんな状況もこれまで何度もあった。
高野も既に助けを求めるだけ無駄と気付いている為周りに構う事は無く、流川に向かい怒鳴る様に言葉を返すだけ。
かと言って流川も口数こそ少ないもののあの湘北バスケ部員、その程度で退く事は無い。
いや、それ以前の話だ。
世の中には便利な言葉がある。
恋は盲目。
今の流川には退くどころか、そんな高野の反応一つさえ可愛く見えるのだ。

「……好きだから」

自分から手を離した流川のそれは、高野の両頬を押さえる。
流川以外の全員がまさか…と思う頃には遅く、僅かに上った流川の踵。
重なる二つの唇。
それは一人無関心でいた長谷川の視線さえ得てしまう程に長く、深い。

「流川…16にして恐ろしい奴だ。学校前でこんな事があっちゃあ、卒業までに彼女!なんて高野の夢は叶わない事確実……自分以外は近付けない、まさに高野のナイト」

藤真が真剣に語れば語る程高野の気持ちは追い詰められる。
銀の糸を伝わせ離された二つの唇。
まだ明るい空の下、ファーストキスがー!!と叫ぶ声が高野の声は翔陽に通う沢山の生徒の耳に届き、消えていった。
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