□後悔
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「花形があんな事になって…随分時間がたったな」




―後悔




藤真の声。
静かなそこに、少し前の様な慌ただしくも楽しげな彼らの姿は無い。
高野がコクッと喉を鳴らして手にしていた物で喉を潤すと、同じ様に長谷川がまた自分の手にしていたそれを傾けた。
皆表情に言い難い何かを残している。

「もう、どれくらい経ったんだ…あれから」
「10…いや、15くらいか」
「20だ」

藤真の問いに返された高野の言葉を静かに長谷川が正す。
その言葉に三人は確かな時の流れを感じていた。
再び静まり返る。
藤真は、最後に見た花形の後ろ姿を思い出し溜息を吐く。
あいつの背中はあんなにも小さかっただろうか…そう考えてしまう程に、最後に見た花形は普段とは違う様子を見せていたのだ。
もっと早く気付くべきだったと今更悔やんでどうなる事でも無い。
それは、藤真だけでなく他二人にも言える事だった。
ただ見送るしかせず、気付く事さえ出来ずにいた事実は変らない。
今になって知った花形の優しさにさえ思えた弱さ。
文句一つ言わずにいた優しさと、言えない弱さ。
ただ一言で知る事が出来たはずなのに、彼は言わぬまま三人に背を向けて行ってしまった。
黙ってしまった三人の耳に、ドアの開く音がした。
花形!と思わず藤真が顔を上げる…が、そこに居たのは永野。

「待て、永野!閉めるな!」

いきなりの声に永野が扉を押える。

「花形…!」

永野が押えた扉から入って来たのは、両手いっぱいに購買のパンと飲み物を抱えてきた花形。
そう、花形はジャンケンで負けて昼食の買出しに行ったのだ。
しかしそこは体育会系5人分、その上先程までの体育の授業で疲れ切っているのだから簡単な事ではない。

「いや、悪いな。まさか20分もかかるなんて思わなくてよ、流石に俺等ももう一人行かせるべきだったなって後悔してたんだよ」
「しかも俺ら飲み物あったしなー、その上永野は聞いたら今日弁当だって言うし」
「更に言うなら永野いねーから誰もツッコまなくてどんどん話変な雰囲気になってくしな!」

ケラケラ笑い出す藤真と高野、一応気にはしている長谷川。
そんな三人を前に、ようやく状況を理解した永野は花形の肩をポンと同情を込めて叩いてやった。
翔陽は今日も仲良しです。

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