□片恋SideKiyota
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好きな人がいる。
その人は俺が知ってるどんな人よりも努力家で、諦めない人。
最初にそれを知ったのは部室に置きっぱだったタオルを取りに戻った時。
常勝なんて言葉を自ら語るこの学校のバスケ部の練習は確かに厳しくて、終るのも決して早くはない。
ましてその日俺が戻ったのは帰り道を途中まで来てから。部室に寄る前に何となく見た体育館はまだ明かりがついていて、覗いたそこに神さんは居た。




―片恋SideKiyota




「何か悪いすよ、毎日送ってもらうっつーのも」

神さんの乗る自転車の後ろに立って、ぽつりと呟いた。
辺りはもう暗くて、点々と置かれた街灯の光と自転車のライトが道を照らし出してくれる。
自転車のペダルを悠々と踏みながら神さんはなんで?と尋ねてきた。
毎日毎日自主練と言って残る俺と、既に日課となってるシュート練に残る神さん。
最初にタオルを取りに行った時の帰り、神さんと目が合ってどうしたの?なんて聞かれて、事情を話せば一緒に帰ろうと誘われた。
調度今終わったから、と笑顔で。
校門前で待つ様に言われて待っていればそこに現われたのは自転車を押して歩く制服姿の神さん。
その時はまだ二人で肩を並べて歩いて、別れ道でまた明日と告げて。
それから自主練だと俺が残る様になって何回目かの時に俺が見たいテレビがなんて思い出して慌てて、その時に後ろに乗ってと言われてそれからは毎日こうして後ろに乗せてもらっている。
今じゃ家の前まで送ってもらっている。
これで悪いと思わない方がおかしい。

「別に俺がやりたくてやってるんだから、気にしないで良いのに」

穏やかな声。
元々穏やかな人なのは分ってるけど、優しくされると勘違いしそうになる。
言えない想いに火が付きそうになる。
一緒に帰る様になって、他よりもずっと仲良くなって、気付いた時には気持ちに変化が起きた後だった。
最初は確かに尊敬だった。
けど、今は違う。
俺はこの人が好きだ。
とは言え相手は部活の先輩。
それ以前に、同じ男。
受け入れられないなんて最初から分っていたはずなのに、日を増して募る感情。
それと一緒に育つ罪悪感。
何も知らない神さんを騙している様な、そんな気持ち。
だけどやっぱり俺はこの人が好きで、それは変えらんないなら、いっそこのまま続けなんて思うのも事実。
今この人の傍に居るのは俺。
だから、どうにもならないならいっそならなきゃ良い。
そしたら、好きでいられる。
好きでいるだけなら良いはずだから。
神さんに彼女が出来たりするまでは、このまま。

「いやぁ、なんか恋って甘酸っぱいモンなんだろうなーなんてちょっと思ったんすよ」

冗談めかして言った言葉。
好きと言えなくてその上ごめんが混じった、甘いのに酸っぱい様な矛盾した気持ち。
それから少しの間を置いて返って来た言葉、そこに神さんの気持ちが見える事はない。

「いや、ほろ苦いよ」

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