□リピートリピート
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「きーしもと君、あーそびましょー」

片や、まるで小学生が言う様に声を弾ませてチャイムを鳴らすのは長身に元々大きくも無い目を更に細めて笑う一人の男。
名を土屋淳。
片や、あくまでチェーンは掛けてままに扉を僅かに開けて外の人物を見ては酷く顔を歪ませる男。
名を岸本実理。
土屋が開いた扉の方へと笑顔を向ければ、岸本はそっと静かに扉を閉めた。




―リピートリピート




「で?」

通された部屋、土屋は目の前の小さなテーブルに置かれたよく冷えた麦茶を一気に飲み干した。
向かい合って座る男は自分の言葉への返事を待ちながら空になったグラスに再び麦茶を注ぐ。
事の始まりは数分前に鳴ったチャイム、男のたまの休日の予定はこうして決まる。
おかんー等と男が呼んでも仕事に出ていない、そうなると自ら出るしか無いのかと扉を開けると居たのが土屋だったのだ。
土屋が男の部屋を訪れる日は理由が決まっていた。

「まぁ聞いてや南君、岸本君ったらヒドいんやで。また何も言わんと閉めてくれたわ」

最早見慣れた光景。
初めて土屋が南宅を訪れたのは今日と同じ様に岸本宅を訪れた後、その日初めて見せられた拗ねた様な顔に南は思わず部屋へと上げてしまった。
それ以来、土屋はよく南の家を訪れる。
二人が付き合う様になってから、両校のバスケ部の休みが重なる度にこうでは南も慣れない筈が無い、現に今も土屋専用とマジックで書かれた既に一度封を開けた菓子を広げている。
もう扱いには慣れたと言わんばかりに。

「岸本君のちっちゃい仮性ち○こも含めてこんなにも愛しとんのに」
「なっ…あいつ、やっぱ仮性やったんか。風呂屋行く度にタオル巻いとるはずや」

肩を震わせ、声高々と笑う南。
あ、これ秘密やったわと土屋も一緒なってケラケラ笑う。
ようやく二人が落ち着けば、今度は向かい合ったままポリポリとスティック状の菓子を食べたり本を読んだりと始めた。
結局の所、土屋もそこまで焦っているわけでも傷付いているわけでも無い。
だからこそ、少し話せば気もすみ後は互いに好きな事を始める。
特に部屋の中を漁ったりとプライバシー云々に関わる事をされるわけでも無いので、南も土屋のする事に文句一つ付けない。
例えば、今の様にベッドの上に寝転がり本を広げたり、等。
そうして陽が落ちる頃に帰って行くのだ。
今日もいつもと変らず、陽が沈む頃にもなると土屋は起き上がり本を片付けた。

「気ぃ付けて」
「ん」

片付けが帰りの合図。
横目にそれを見て簡素な言葉を述べれば、土屋もまた簡素に返事を返した。
まだ南の親は帰って来ていない。
部屋に南を残して土屋は南の家を出た。

「ボケェ、遅いわ」

玄関を出て掛けられた声いつからそこに居たのか、暇な時間を過ごし眉間に皺を寄せた岸本の姿がそこにあった。
おそないわ、と一言返して土屋から歩み寄れば身長に大差の無い二人の頭が並んだ。
決まった流れを毎度辿る休日。
土屋が岸本の家を訪れ、岸本がそれを拒み、土屋は南の部屋で半日を過ごし、帰りを待つ岸本に送られる。
岸本から強く掴まれた手、ずかずかと早足で歩き出そうとすればガラッと窓の開く音がした。

「そこの短小仮性ー、たまには部屋片付けて中に入れたれ」
「んなっ…」
開いた窓からの声に、何で知ってると続けるまでもなく情報の発信源であろう方を岸本が見ると、土屋はわざとらしい程可愛い子ぶって笑った。

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