□出会い
1ページ/1ページ

今となっては誰が言ったのかさえ分らない。
ただ、確かに誰かがそれを言ったからこそ今この状況を迎えているのは間違いないのだ。
部活終了後の部室に人の数は多くだが会話らしい会話をする者はない。
誰一人として帰る様子を見せない理由は一つ、藤真に向けられた

「なぁ、そう言えばいつ頃から海南の牧と仲良いんだよ」

との言葉。
そこから始まった藤真健司トークショー。
帰る事は、許されない。




―出会い




俺と牧が初めて出会ったのは、今から十年近く前の話…俺達がまだ小学生の頃まで溯る。
当時の俺は体が弱く、入退院を繰り越しがちな少年だった。
うちは両親共働きで、親は滅多に見舞いに来る事もない。
入院する度に持たされる本。
だけど読むにしても限りがあって、積み重なるだけの退屈が苦痛でしかなかった。
当時はまだ小学校低学年だ、遊びたい盛りに決まってんだろ。
病室の窓から見える公園では毎日自分と同じくらいの奴等が遊んでる、毎日毎日、それを眺めてた。
今日は鬼ごっこ、今日はゴム跳び、今日は缶蹴り…楽しそうな姿が羨ましくて羨ましくて、ある日、我慢出来ない俺は病院を抜け出したんだよ。
入院着から入院する日に着てきた普通の服に着替えて、それまで着てた入院着も冷蔵庫の中に隠して暫くは見付かる事もないはずの状況を俺なりに作った。
入院着も無けりゃ普通に考えて購買かトイレに行ったくらいにしか思われねーと思ったんだよな、確か。
結果として病院の脱出は成功、向かった先は勿論窓から見える公園。
その日は調度缶蹴りの日で、沢山居るはずの子ども達はどこかに隠れちまってた。
残ってたのは鬼役が一人…そう、それが当時小学生の牧だったんだ。
あの頃はまだ日に焼ける前で黒くは無かったけど、目元のホクロはあの時にもあって、それが何かすげぇ印象的だったのを未だ覚えてる。

「キミは…?あ、おれは牧だ…牧、紳一」
「えっと、おれ、藤真!藤真健司、おれもナカマに入れてくれよ!」

100まで数え終わったばかりの牧と目が合って、すぐに気持ちを伝えた。
その時はとにかく遊びたくて遊びたくてたまらなかったし、言うなら今しかないって思ったんだよ。
牧は勿論って笑って答えてくれて、それが嬉しくて飛び付いたっけか。
で、その回の缶蹴りは始まっちまってるから少し待ってろって言われたんだよ、確か。
でもまぁルールもルールだし、少しくらい時間掛かっても仕方が無いくらいに思ってたのに、牧の野郎マジで少しの時間で全員捕まえてな。
鬼交替ってなる時に、牧が俺を紹介してくれて一緒に遊んでた奴等も良いよって言ってくれた。

「藤真、いっしょにかくれようぜ」

初めて来た公園の中で隠れられる場所がいまいち理解してない俺に、牧がそう言って手引っ張ってくれてさ、その時は確か…そうそう、かなりデカいタイヤ吊るしてる遊具があってその中に隠れた。
マジ大きくて俺ら二人なんて余裕で入ったな。
そこから丁度バスケやってる高校生くらいの奴等が見えて、牧が真剣に見てるもんだから俺も一緒になって見てたら、アイツ俺に言ったんだよ。

「高学年になったらバスケットクラブに入るんだ」

って。
公園遊びに来る度にあぁしてプレイしてる奴等見てたら自分の方も夢中になっちまったって、な。
それ聞いたら尚更俺まで興味持っちまってよ、そのまま二人で隠れてんの忘れて見てて、当然だけど鬼に見付かった。
アホだよな、今思い出すと。
それで缶の近くで誰かが缶蹴るか鬼が全員見付けるかを待ってたら、俺が看護婦に見付かって強制送還。
仲間に入れてくれて有難うの一言も言えないまま、な。
それ以来俺に対する看護婦の目が厳しくなって抜け出せる事も無くて、結局それ以来会う事無いままだった。
ただアイツと見た…今思えば3on3が忘れられなくて、入院してる間はバスケの事すげぇ勉強したし、退院してからは必死になって体鍛えて健康な体作ってバスケ始めた。
予定よりずっと遅くなったけど中学の時にたまたま試合会場でバッタリ再会して言ってやったんだよ、有難う、ってな。









「…普通に良い話だった」

藤真が話終える頃、部室内はしんと静まっていた。
誰かが呟いたその言葉に皆が頷く姿を見て、藤真が続ける。

「まぁ、全部嘘だけどな。普通にお互い一年の頃から試合出てて面識あったし、スポーツショップ行った時に一緒になって以来他よりよく話す様になったんだよ」

あぁ、やっぱりそうですよね。
その一言を口にする者は無く、やはり一緒にスポーツショップに居た為に事実を知る花形は、一人黙々とまとめていた日誌をパタンと閉じた。







毎日がエイプリルフールな男

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ