□部活後補習
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「神さん出来た!」
「お疲れ様、じゃあ少し待っててね」




―部活後補習




時計を見ると時間は21時を回っていた。
他の部員はもう帰っていて、今この部室に残っているのは俺と神さんの二人きり。
二人だからって特に甘い雰囲気になるわけでも無く、むしろ俺の気分は重いくらいだった。
数学の授業で何度か行われてきた小テスト、繰り返し取った3割以下の点数。
そうして俺を含めた似た様な点数の4人に言われたのは、放課後の補習授業だった。
とは言え4人中3人は部活に入ってる状況、そんなの受けてられるはずがない。
それで先生が再度出した答えは、これまでのまとめのテストを俺ら4人に実施、その点と次第で補習はしない、そんな感じだったはず。
他の教科は何となく勘も交えながらもそこそこ点数を取れるのに対して、数学だけはそうはいかなかった。
まずいくつもある長い公式は覚えられない、で更に問題を見てもどの公式を使うのかが分らない。
だと言うのに問題のテストは1週間後なんて言われてしまった。
それで俺が神さんに相談した結果、毎日シュート練後に教えて貰ってるっつーのが今の状況。
あと、それを知った3年の先輩方が宮さん中心になって神さんを待つ間に教えてくれたりもする。
そんなこんなでテストはついに明日。

「…ふー」
「あ、終わりました?」

神さんか向かい合っていた紙から顔を上げる。
明日に備えて宮さんが作ってくれた模擬テストを最後にやって、神さんが丸付けしてくれていた。
よく頑張ったね、そう言われて俺の前に返された宮さんお手製答案用紙に赤で書かれていた数字は勿論100なんて数字じゃなかったけど、それでも俺にしては凄い良い点数。
全体を見て付けられていたバツの数は三つだけど、今までと違って使ってる公式自体はあってるし気を付ければ何とかなりそうなくらいのミス。
これなら何とかなる気がする!
つーかむしろ、この答案ごと数学の先生に見せてやりてぇくらいだ。

「この調子なら明日も大丈夫だよ、頑張らないとな」
「うっす!」

机を挟んで伸ばされた手が俺の髪に触れる手が気持ち良いのに、まだ撫でられていたいなんて思っている間にすぐに手は離れてしまう。
名残惜しくてその手を掴みそうになるけど、慌ててそんな自分の手を下ろした。
理由は俺が馬鹿だからだし良い理由とは言えないけど、それでも二人きりになれる時間が嬉しかった。
別に二人きりじゃなくたって良い、一緒に居られる時間が増えた事がただ嬉しかった。
それももう終るのかと今更気付いて、少し淋しい。
明日のテストの不安と今のちょっとした寂しさでダラダラと帰る準備をしていると、頭上から名前を呼ばれる声がして素直に振り向けばそこには向かいに座っていた筈の神さんが居た。
帰り支度も終わって肩から下げられた鞄。
急がなきゃ、と思った瞬間両頬をがっちり掴まれて、感じたのは額に当たる柔らかい感触。
続きはテストの点次第。
そう言って笑う姿に、ようやく事態を飲み込める。
途端に熱く感じる額を押さえて、そんな事を言われてはもっとなんてねだれるはずもなくて、俺は荷物を無理矢理鞄に詰め込んで立ち上がった。

「あ!でも、点数が低い時はお仕置ね」
「なっ…!」
「………」

赤くなる自分の顔。
そんな反応を楽しんで小さく笑う神さんが開けた部室の扉…そこには、すっかり入るタイミングを失っていた牧さん達が居た。
待っていてくれたのかなと考えるよりも、今はただ聞こえていたであろう会話に恥ずかしくなる事でいっぱいだった。

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