□純不純
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そう…それは確かに、俺の方。




―純不純




「…っ」

ただ一人、顔を思い浮かべては毎晩の様に繰り返してきた自慰行為。
手の内に広がる白濁とした精をティッシュで拭っては、壊れたラジオの様にリピートし続ける単語。
ごめん。
告げられた言葉が頭の中に響く。
それはずっと望んでいた言葉、ずっとずっと。
最初は少し恨めしくて、なのに慕ってくるものだから調子が狂って、気付いた時にはボールを追う姿に惹かれていて、口を大きく開けて笑う姿が可愛く感じた。
言いたかったのは、好きの一言。
言われたかった言葉も同じ。
望んでいたそれを言われた筈が、またも狂わされていた調子。
逃したタイミング。

『聞かなかった事にして下さい』

そんなの出来る筈が無くて、なのに俺から告げるタイミングも見失って、残されたのは言い出せない言葉と淡い期待。
変る事の無かった日々が過ぎる毎に、期待は胸の奥に侵蝕していった。
それが奥底に届いた日から冷めない熱。
見た事のない乱れた姿を頭の中で思い描いてみては増していく罪悪感を消せなくて、たまに見せる苦笑いが直視出来ない。
本当は知っている、気持ちが変っていない事実。
それでも何も無かった様に接したのは俺から。
それを知って尚止む事無く繰り返されてきた不純な行為は、きっと誰よりも想う純粋な気持ち。
全てを不純で満たした時に、きっとタイミングは掴める。
だってそう、混じり気が無いのだからそれは純粋。
純粋なまでの不純。

「ノブっ…」

名前を読んでもう一度手を動かして、不純になろう。
告げずに居るのは、俺の方。
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