□大嫌い
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短い髪を掴んで、深く、深く咥えさせて。
喉を突かれて噎せる姿に沸く歓喜。
それが始まりの合図、馬鹿げた仲は終わらせちまおう。




―大嫌い




「俺さ、ずっと前からお前の事嫌いだったんだぜ」

行為中に告げた言葉は、三井の整った顔立ちを大きく歪めた。
正しくは違う、俺の物を咥える様は元々歪んでいた。
だけどそれはどんな奴にも言えた事でどれだけ整った顔の奴も、見せる為のAV女優すら男の物を咥える顔は綺麗とは言えない、間抜けに開いた口と吸い付いてへこむ頬、アンバランスで無様なアホ面。
分っていてもその行為に興奮を見出だせるから俺達男は面白い。
とは言え、今はそんな事はもう関係無くて、それに加えて歪められた顔で俺を見上げる姿は滑稽。
それまで夢中になっていた筈の動きを止めて、目を見開く顔はまだ理解しきれていないのだとよく分る。

「誰が止めて良いって言ったよ」

無理に突いた喉。
咳込む際に立てられた歯、伝わる刺激。
痛みに任せ掴んだ頭を俺の物から離して床に叩き付ける。
大きい音がして投げ出された体はそこで動きを止めるかと思いきや、すぐに飛んできた拳。
左頬に感じた痛み。
そこに触れると、ジワジワと熱を持つのが分る。
あぁ殴られたか、なんて考えて人伝てでしか知る事の無いコイツの二年に納得した。

「わ、悪い…でも、どうしたんだよ急に」
「言葉の通りだろ」

殴られた頬を押えながら、手の早い不良上りの目の前の男を鼻で笑った。
俺のその顔にまだ理解を示そうとしない、困る様に頬を掻くその姿は益々俺に苛立ちを与える。
もっとも、理解が出来なくて当然だと思う気持ちも俺の中にあった。
今の俺達の関係は公にはしてないながらも俗に言う恋人関係。
そもそもにして、この関係を始めたのも俺の方から。
湘北がIHを終えて帰って来た後、たまたま会ったスポーツショップで声を掛けて、そこから個人的に会う様になった。
そして聞いたバスケと離れた二年間の話、芽生えた感情。
それを聞いても変らずに会って、好きだと言って、それを言い続けるうちに流されたのか、三井は俺の言葉にYESの答えを出した。
そうして始まった関係。
体を繋げる迄にも長い時間は掛からず、女側をさせるに辺り必要以上に優しく接してきた。
体を気遣い甘い言葉を吐いてきた、毎日毎晩メールだ何だのやり取りもしてきた、それも全て今日の為。
三井が俺に惚れきった所で、俺の気持ちを伝えてやる為。

「ずっとずっと大嫌いだった。二年も無駄にしたお前が、大嫌いだった。やり足りないのに、もっとあいつらとバスケしたいのに、あいつらの足で全国に立たせてやりたかったのに、二年も無駄にしたお前がそこに立った事がただムカついた」

動こうともしない、目を逸す事さえせずに俺を見る目は光が小さい。
僅かに感じる怯えにも似た視線。
その目が気に入らなくてまた掴んだ短い髪。
一志に前に聞いた話だと肩まであった時期もあるとか…今の姿からじゃ想像は付かない。
悪いと呟く三井、それがこの場凌ぎじゃない事は分る。
試合中のコイツを見ててコイツなりに必死なのも分ってる。
それでも許せない、無駄な時を過ごしたコイツが。

「なぁ、お前のその二年間…俺にくれよ」

ただ足りないだけ、満たされないだけ。
時間と欲。
アイツらと続けていく時間が足りない、満足出来ない。
満たされない欲を埋める為に見付けた別な欲、そして始めたこの関係。
無理矢理に重ねた唇、舌でなぞって、噛み付いて。
じわりと滲む血を舐めとる。

「うわっ、まずー」







藤真はもっと強い子だって知ってる、でもいつか三井視点も書きたい
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