□お題
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何度も時計を見て時間の確認。
待ち合わせの時間まで残り11分。
岸本のポケットから延びたコードは途中から二つに分かれ、一つは南の左耳へ、もう一つは岸本の右耳へ。
一人で使う為に持って来たそれは、暇な時間を潰すのだと南が奪った。
ピンと張ったコード。
二人の距離。
それ以上詰まる事も無く、かと言って離れる事も無いイヤホンの届く距離は例えそれが無くても定番となっていた。

「二人共来んの早いわ」

最後に時間を確認して僅か1分。
待ち合わせからは丁度10分前に現われた男は、二人の耳からそれぞれイヤホンを抜き取り何事でも無い様に延びてくる岸本のポケットへと戻す。

「今日もきっかし10分前やな、土屋」
「毎度毎度きっかし10分前到着て…狙っとんのか」
「さぁ?」

手首に嵌めた時計を見ながらまたかと呟く岸本に、土屋は反省の欠片さえ見せぬ様子で軽く笑いながら謝罪の言葉を述べる。
自分の場所を見付けて入り込んだ土屋に落ち着いたその空間に、三人は誰からともなく歩きだした。
イヤホンの届く距離、特等席。
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