□拝啓、今は違う夢を追う同じ空の下の君
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「俺、いずれアメリカに行こうと思うんだ」
「…ふーん、で?」
「だから、もし越野が良かったらなんだけど、俺と…」
「あー、ストップ…ストップ!悪い、俺にはその先聞けねぇ」
「え…」
「俺、お前とか…あと牧さんや藤真さんや流川とかそこら辺と根本になるバスケセンスが違うんだよ。努力して伸びる事は出来るけど限界もある。今はそれでも良いけど、俺長男だから…親安心させたいしな」
「………」
「だから、その先は聞けない」
「そっ…か。うん…」
「謝んなよ?謝ったらグーパン、今ならもれなくもう一発セット」
「何だよそれー」




―拝啓、今は違う夢を追う同じ空の下の君




「痛ーっ!」

ドンッと大きな音と、体中に響きいきわたった痛み。
目を開くといつもより天井が高くて、あぁベッドから落ちたんだ…なんて寝ぼけた頭なりに理解した。
時計が差す時間はまだ11時を過ぎたくらい。
良かった、まだ午前中だ。
久し振りの丸々空いたオフ、やりたい事は沢山ある。
午前中のうちに洗濯をして、それが終わったらガランとした冷蔵庫を満たす為にも買い物に行って…何だかんだでやる事は沢山ある。
「にしても、懐かしい夢見たなぁ…あれ、高校の時か」

体を起こして買ってあったパンを適当に食べて、気付いたら溜まってた洗濯物を洗濯機に入れて、今日見た夢を思い浮かべる。
長く忘れていたあの日の事。
越野の事を忘れた事は無かった、忘れられなくて駄目になった付き合いも2度3度とあったけど、それでも忘れられない。
夢の中の越野は笑ってた。
だから、あの日の越野も笑ってたんだと思う。
その日から何かが変る気がしていたけど結局変る事は何も無くて、俺がアメリカに来る前日まで変らない日が続いた。
だから俺はそんな越野の態度を大人だな、なんてガキくさい事さえ思っていた。
そうじゃなかったって知ったのは空港で。
てっきり見送りに来てくれると思っていた越野の姿が何処にも無くて。
あぁ、あの時は寂しくて飛行機の離陸さえ感じる事なく寝たっけ。
洗濯機に肘を付いて頬杖なんかつくと振動が伝わってきて、低い音が耳の奥まで響いてくる。
この音さえ懐かしい。
そう言や越野に洗濯を手伝わせた日もあった、俺が細かい物を、越野は大きい服をハンガーに。
『こんなに溜まる前にやれよ、異臭騒ぎでも起こす気か』
言われた言われた、そんな事言われた。
越野の声で再生された声に思わず零した笑み。
ごめん越野、俺また同じ事やっちまった。
一回じゃ入り切らなかった洗濯物、今もまだ残った多くは無い服が俺の後ろにある。
きっと越野がこれ見たら呆れるんだろうな、それで怒りながらまた手伝ってくれる。
すぐに想像付く辺り凄い。
あの頃から時間なんてまるで経ってないんじゃないかって勘違いしそうになる。

「元気かな」

最後に越野と話す事無くここに来て、臆病風に吹かれた俺は新しい住所も連絡先も何もかも伝えられずに今日までを過ごしてきた。
結婚…は、無いか。
親と話した時もそんな話はしてなかったし、連絡先知らないなら実家に案内くらい来るだろうし。
いや、まさか最初から招待されてない…とか。
それならそれで可能性も無いとは言えないし、お嫁さんにしたら俺は結局元カノと変らない立場なんだろうし。
でも、だとしたら少しヘコむけど…無い、絶対無い、越野に限ってそれは無い。
何となく、そんな気がする。

「会いてぇなぁ」

お知らせ音を鳴らす洗濯機の中から沢山の服を取り出して、一枚一枚皺を伸ばす様広げて干していく。
その中から見付けた一枚の着古したシャツ。
確か越野と初めて二人で遊びに行った時にこれ着てたななんて手に取ると、その下からも出てくる出てくる。
初めて試合形式の練習に着てたのとか、一目惚れして買ったら見事に越野と被ってた服とか。
こうして見ると、色んな所に越野と過ごしてきた日が残っていた。
日本から持って来た物は殆どそうかもしれない、それだけ一緒に居たから。
浮かんでくる沢山の表情。
でも今はそれを振り切って、今日やる事を急いで終わらせよう。
それで…夜になったら電話をしよう。
まだ繋がるかは分らないけど、何となく繋がる気がする。
そう俺の勘が告げている。








もしもし、越野ー?うん、そう俺ー、仙道ー。久し振り。
え、あ、うん…ごめん。って、え?それまだ継続中なの?聞いてねって!
うっわ、横暴だろそれー…。
あ、彼女出来た?え?え?そうなの?
うん…うん……








イメージした曲があったのに激しくイメージが変ってしまった。
プロットをたてる事を覚えよう

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