□わからない
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好きだと言われて悪い気はしなかった。
それは俺も好きだからとかそんな可愛い理由じゃなかったけど、兎に角悪い気はしなかった。
けど、良い気もしなかった。
だってそうだ。
わからない。
神さんくらい顔が整ってればそれだけで女の子は寄ってきそうなモンだし、俺が知る限り優しい人だ。
一部例外があるにしても、やっぱり優しさは必要だって仲の良い女子が言っていた。
因みに俺は優しさが足りないからパスなんて冗談混じりに言われた。
だけど神さんならそんな事もないだろうし少なからず女子にだって好意は向けられてると思う。
なのに、わざわざリスクのある同性の俺にその好意を向けるのはどうしてなんだろうと、結局考えてもわからなかったから聞いてみる事にした。

「何で俺なんすか?」

遠回しなんて器用な事が出来なくて、部活が始まる前にすぐ隣りで着替えながら聞いてみた。
周りには同じ様に着替えてる人が何人も居るけど、皆それぞれに会話を楽しんでいるし特に気にされている様子も無い。
神さん自身気にした様子は無くて、どうして?と俺の方を見る事無く返してきた。
これは、何でそんな事を聞くのか…とか、そんな意味で良いんだろうか。
神さんの方を見ても手が止まる事は無い。
俺も俺で神さんの様子をたまに伺うくらいで、今もボタンを外す手は止めていないしそこに文句も何も無い。

「わかんなかったから…す」

色々と飾る言葉を考えてはみても、結局思い付く事が無くて返した言葉は一番素直な言葉だった。
近くで巻き起こった小さな風に前髪が揺れる。
風がしたのは神さんの方からで、そっちを見ると既に着替えを終えた神さんがロッカーに寄り掛かる様に立っていた。
向けられた視線と、笑顔。
思わず手が止まる。

「分らないって言うけど、信長はそもそも部活の先輩以外の俺の事を知ってる?
どんな人と仲が良いのかとか。家族はどんな人かとか。信長が入学する前の俺はどんな奴だったか。海南に入る前の俺はどうだったか。小学生の頃は?その前は?どんな風に生まれた?俺が生まれたのは俺の両親が通算何回体を重ねた時?近い事も遠い事も、分らない事なんていっぱいだろ」

言葉一つ挟めずにたった一度頷く。
「俺も同じ、ノブの事は分らない事だらけだけど、それでも好きって思った。他人なんだから分らない事はいっぱいある、知ってるつもりでもそれが本当の事かは実際分らないよね。だから俺は自分で分る自分の気持ちに素直になっただけ、理由なんてきっと無い。好き」

ポンと頭に置かれた手がクシャと俺の髪を乱す。
お先にと告げて先に部室を跡にした後ろ姿を見て、余計に神さんがわからなくなった。
だけど、わからない事でいっぱいな神さんに今更わからない事が一つくらい増えても良いかななんて、前向きに考えてみた。








不思議ちゃんが書きたかっただけ

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