□花火
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親に言われて久しぶりに部屋の掃除なんて事をしたら、机の影から中身が入ったままの持ち手が固く結ばれたビニール袋が出て来た。
夏休みに入ってすぐに買ったそれ。
買ってすぐから今の今まで忘れていたのかと言えば、違う。
何度も思い出しては手に取って、結んで、今となっては何重にもなった結び目は解けそうにない。
夏を終える頃には手に取る事も無く、その後からは今日これを見付けるまで忘れていた。
もしかしたら忘れていたわけじゃなく、俺が避けてきていたのかもしれない。
そう思う程にこれの存在は、少し前の俺には疎ましかった。
机の上に無造作に置かれたままだったハサミを手にして、何度結んだのかさえ分らない持ち手の根元を切る。
支え持たれる事の無い袋は地面に落ちて、中の物をばらまいた。




―花火




「悪ぃ、遅くなった」

一度は部屋の床に広がった花火を拾い集めて別な袋に入れてから、俺は暇そうな宮城を学校に呼び出した。
花火やろうぜと告げた時に電話の向こうから聞こえてきたのは溜め息。
少しだけ間を置いて続いた言葉は時間と場所を尋ねるものだった。
そして今、俺は件の花火を持って湘北の校門前まで来たところで、先に到着していた宮城と合流。
二人で夜のグラウンドの中央に立つと、薄く張った雲の奥にぼやけた月が見えた。
俺は持ってきた花火を、宮城は俺に言われて家から持ってきたバケツを下ろす。
グラウンドに来る前に水も入れてきた、準備は良し。
しゃがみ込んで袋の中から花火を出して、二人で包装やら種類ごとに束ねる紙やらと剥いでいく。
こうして見ると、意外と多い。

「何で今頃花火なのか聞いても良いすか?普通に考えてももう売ってる時期でもないし」

互いに汚れるとかそんな事も気にせず地面に腰を下ろした頃、手にした線香花火の束を崩しながら宮城が口を開いた。
これで一緒にいるのが、例えば同じクラスくらいの関わりだったりしたら聞かれても適当に返せばすんだ。
だけど、相手は宮城。
もしこれが赤木でも木暮でも徳男でも同じ、あの場に居た奴や深く話を知っている奴に誤魔化しはきかない。
元より誘った時点で覚悟なんてモンはしてた。
落ち着いて話そうと息を吸い込むと、冷たい空気が思った以上に頭をスッキリさせる。

「重なって見える気がして、嫌だったんだよ…」

桜木に。
俺の居ない間にポッと現われた素人が、短期間でバカみてぇに育って、あの山王まで破る事になって。
目立つだけ目立ってあんな事になったアイツが、眩しいくらいに光るわりにすぐに散っちまう花火と重なって。
帰って来たらやるつもりで買ったそれを手に取る度に、あの試合中の事を思い出した。
そんなうちに結び目はどんどん増えてって、普段目にしない場所に置いて忘れていたんだ。

「花道はそんな綺麗なモンより、どっちかっつーと……こっちでしょ」

そう言ってライターを手にした宮城は、沢山の花火から距離を置いて小さな黒い物に火を付けた。
腰を上げて近付いて見ると、じわじわと伸びるそれ。
こんなのも混ざってたのかとさえ思わされるそれは、最近じゃあまり見なくなったヘビ花火。
辛いと言われるリハビリもこなして諦める事を知らないアイツには、今改めて見るとこれぐらいしぶとい物の方があっている。

「それにしてもアレ、二人でやるには多過ぎますよ」
「マジで?…なら誰か呼ぼうぜ、流川とかチャリ通してるぐらいだしすぐ来れんだろ」
「はいはい」
この後、二人で電話を掛けまくり集まった奴等と今年の夏最後の花火をやった。
はしゃぎ過ぎた俺達が近所からの苦情で職員室に呼ばれたのは、翌日の昼休みの話。

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