当×征小説 番外

□朧月‐side.Touma U‐
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「―――当麻、本当に1人で行くのかい?」


伸の声に、当麻は振り向いた。
彼の後ろには、心配そうな遼と秀の姿も見える。


「ああ。自分で探さなきゃならない気がするんだ。……“俺”が征士を見つけなきゃ、きっと意味がない。そんな気が―――」


じっと、伸は当麻を見つめた。
堅い意思を持った空色の瞳が、揺るぎなく伸を見返してくる。

仕方ないな、と言う感じで伸は息をついた。


「……気をつけて。僕たちの力も必要になったら、ちゃんと言うんだよ」


「ありがとう、伸。じゃあ、必ず征士と二人で戻るから」


去って行く当麻の後ろ姿を見ながら、遼が呟いた。


「……征士、大丈夫だよな、伸」


「……多分。後は、当麻に賭けるしかないよ」


「けど、ここまで気配感じないのは初めてだぞ。……まさか――」


秀も不安そうに言った。
“まさか”の後は、ずっと皆が考えないようにしていることで。


「その先は、言っちゃ駄目だ。秀。」


強く睨まれて、秀がしゅんと項垂れた。


「……すまん」


秀の肩を、ポンと軽く叩いて伸が微笑んだ。


「大丈夫。当麻を信じて待とう。……僕たちに出来るのは、それくらいだ―――」


大切な仲間が行方不明なのに、何も出来ないなんて悔しいけれど。


「………せめて、祈るよ」


当麻の背中に、伸は呟いた。

君たちの無事を―――




 *********




実際のところ、あてなんて無かった。

けれど、とにかく征士の気配を少しでも見つけられれば、何とかなるかもしれないと思う。あれ以来、欠片程も感じることが出来なかったけれど、探すことを当麻は諦められなかった。


ある山の頂上近くまで登り、見晴らしのいい場所に当麻は立っていた。

天空(そら)が近い。

何処までも蒼く広がるそれを仰ぎ見る当麻の長い前髪を、風が揺らしていった。


「……俺に、力を貸してくれ。光輪を探すんだ」


呟いて、目を閉じた。

額に意識を集中させる。
当麻の周囲に、竜巻のような風が起こった。

辺りの枯れ草や土ぼこりを舞い上がらせて風が消えても、当麻は暫くそのまま佇んでいた。
風の名残が、当麻の髪を小さく揺らした。
と、その瞳がハッと見開かれる。


(今……確かに―――!)


とてもとても、微かなものだった。


「征士……!」


確かに、彼だった。
風が運んで来た、間違えようもない愛する恋人の気配。
それと共に、頭に浮かんだイメージ。


月―――?


何か、月が関係しているのか。
そういえば、あの時も月が見えた。

当麻は、何処までも広がる空をじっと眺めた―――




夜を待った。

降って来そうな程の、満天の星空。
その中に浮かぶ満月を、当麻は険しい顔で見据えていた。


降り注ぐ銀の光は、なんだか何時もと違って見えた。


「………いるのか、征士」


其処に―――


月のような彼は、月に囚われたのか。


銀の光の中に、あの時見た真珠が一粒混ざって落ちて来た。

当麻は目を見開いて手を伸ばし、それをそっと受け止めた。
今度は、それは暫くの間月の光を受けて、当麻の手の上で輝いていた。
そして、何かを語り掛けてくるように瞬いて、再び弾けて消える。


「征士……。征士…!」


いるんだな。
この、光の先に。

当麻の瞳から涙が一筋零れた。

不安だった、ずっと。
征士は何処かできっと自分のことを待っている、とそう思ってはいても、心の奥にいつも悪い考えがちらついていたから。


嬉しい―――


征士はいる。
必ず、連れて帰る。

顔を上げて、当麻は低い声で呟いた。


「……返せ」


夜空に浮かぶ月を見据える。


「征士は、俺のものだ。誰だろうと渡すつもりはない」


すると、いきなり当麻の周りを目映い光が包んだ。


「―――っ!?」


光と共に、ゴウッと強い風。
思わず顔を両腕で覆う。

一瞬……だっただろうか。
風が治まって、顔を上げた当麻の瞳が見開かれた。


「―――何処だ……ここは」


其処は、岩だらけの洞窟のような場所だった。
思わず呟いた声が、辺りに低く響く。
薄暗い周囲をぐるりと見回した当麻は、ハッと洞窟の奥を見据えた。


征士―――いる!!


奥からとても覚えのある気配を感じて、当麻は駆け出した。
幾つかの分かれ道も、迷わず進む。
感じる光が強くなった、と同時に拓けた場所に出た。


「征士!!」


其処は、周囲の岩が仄かに光を放つ場所だった。
一番奥の台座のような岩の上で、征士は横たわっていた。


バシ―――ン!!


「――――っ!」


駆け寄った当麻は、見えない壁に阻まれて、弾かれた。
電流が身体を走ったような衝撃に、当麻は踞る。


「っ…てぇ……。なんだ?」
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