当×征小説 番外
□空と月と闇B‐新月の夜‐
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自分の襟元を掴む当麻の肩を押し留め、螺呪羅は言い聞かせるように言う。
「待て。落ち着け、天空。俺もはっきりとは知らんのだ」
当麻の肩を宥める様に、軽く叩いた。
「はっきりとは知らんって―――」
「大体の場所くらいしか分からんからな。彼奴が、此方に来た時にねぐらの様にしていた場所だ。とりあえず、その辺りに行って探ってみる」
「俺が行く。その場所を教えてくれ」
踵を返そうとした螺呪羅の腕を掴んで、当麻は必死に訴えた。
やっと見つけた征士に繋がる糸を、ここで切る訳にはいかなかった。
「………天空。気持ちは解るが、本当にそこにいるかどうか分からんのだし―――」
「俺たちの問題だ。少しでも可能性があるなら、俺が行く」
自分を見据える空色の瞳に譲らない意志を感じ取り、螺呪羅は小さくため息をついた。
「………分かった。だが、俺も無関係ではないからな。俺も行くぞ。それでいいな?」
*********
愛しい者は、静かに涙を流した。
そして、その後の彼は感情をなくしたみたいに、まるで人形の様になってしまった。
暗闇の中、淡く輝く金の髪をそっとすく。
「―――光輪……」
その身体に触れれば、小さく反応を返す。
けれど菫色の瞳は、遠くを見たまま悪奴弥守を映さなくなってしまった。
「………光輪」
もう一度その名を呼び、答えない唇にそっと口付ける。
ピクリと征士の肩が動いたが、ただそれだけで。
悪奴弥守は切なげに眉を寄せた。
―――こうなるのを、望んだ訳ではない。
ただ愛しくて触れたくて、想い焦がれてこの腕に捕らえた。
全てを拒まれている訳ではないのは解る。
だから、何時かは自分を見てくれるかと思ったその瞳は、思いに反して何も映さなくなってしまった。
「俺を見ろ」
天空ではなく、自分を。
今お前を抱いている腕は、この俺のものなのに。
拒まないだけでなく、求めて欲しいと思う。なのにそのしなやかな白い腕は、自分に向けて伸ばされることはない。
ここまで光輪の心を占めているあの男を、憎いと思う。
何故自分ではいけない。
想う気持ちならば、天空には負けていない。
「俺を見ろ、光輪―――!」
闇の中に、悲痛な悪奴弥守の声が吸い込まれた。
*********
「げ!螺呪羅!?」
「おお、久しいな。金剛」
微笑を浮かべる螺呪羅に対し、秀は条件反射で身構えていた。
「なんで居るんだよ!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ秀を尻目に、伸が当麻に耳打ちする。
「くれぐれも気をつけなよ。……一応、螺呪羅は悪奴弥守側の人間だし」
「ああ。……けど、その辺は大丈夫だと思う。ただのカンだけどな」
3年前のあの頃は敵同士だったけれど、今の螺呪羅は信用しても大丈夫だと、そんな気がする。
「本当に……君とあいつだけでいいのかい?」
なんだかこういう時の伸はとても心配性だ、と当麻は苦笑した。
「俺達の問題だし……。本当は一人で行きたいくらいだけど」
「気をつけて。君、意外と無茶するんだから」
「ああ。……伸には心配ばかりかけるな。………すまん」
しおらしく謝る当麻に、伸は大きく息をついた。
「そう思うんなら、征士と二人で無事に帰って来てよね」
「ああ。きっと―――」
当麻は真っ直ぐに伸を見て、力強く頷いた。
《続く》