お宝小説部屋
□落榎さんより[伸遼/日記ログ]
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「暑くなったよな…」
外の水場で蛇口を目一杯開け、頭から水をかぶって汗を流す。
気温が上がった中で散歩がてらの運動をしてきた遼にとっては、水道の水の冷たさはひどく心地好かった。
が、蛇口を閉めようと手をかけた時、遼は自分がドジを踏んだ事に気付いた。
(タオル、忘れたな…)
このまま顔を上げれば、髪からの水でそこら中や自分も水びたしになる。
そうなれば当然…
「ほらっ、運動するならちゃんと用意してからしないと…」
頭にいい香りのするタオルがかけられ、遼は自然に笑みが浮かんだ。
それに気づかれないよう、タオルで髪を拭きながら声の主である伸に礼を言う。
「助かったよ、ありがとな伸」
「ったく…まだ全快じゃないんだから、あまり無茶しないでくれよ」
遼が髪を拭くと、残っていた水分が頬から顎を伝って、土に落ちる。
その様が妙に綺麗に見え、伸の鼓動が僅かに早まる。
(…無防備にしてたら、知らないよ)
遼が拭くのを止めた髪に、伸は再びタオルをかけると、更にゴシゴシと髪を拭き出す。
「これじゃ今度は風邪引くよ!いくら暖かくなったからって、油断は禁物だよ」
「…すまん」
伸の強い言葉に、遼はしゅんとなって弱々しく呟く。
そんな遼に、伸は慌てたように手を止めて遼の顔を覗き込むと
「誤解しないでね、責めてるんじゃないよ。ただ…」
遼の背後から腕が回され、そのままぎゅっと抱きしめられる。
「し、伸」
「ただ、心配なだけなんだ…」
腕の強さに、伸の気持ちが遼にも伝わる。
遼が後ろを振り向くと、唇に何かが触れた。
「体も心配だけど…なんだか別の意味でも心配だよ、遼」
「…俺はお前の思考のが心配だよ」
…夏はもう少し先。
終