当×征小説

□19歳 盛夏T
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慌てて家を出た。

今朝の電話での当麻の様子が、変だったのだ。

寝起きの時に当たったりすると何時も寝惚けていてヘンなのだが、今回は何か違った。

元々、大学の夏休みに入ったら暫くあいつの家に滞在するつもりだったので、予定を早めて大阪に向かうことにする。


去年はお互い受験だったので、GWに一度会ったきりだ。
やっと会える嬉しさはどこへやら。焦りばかりが募る。


『征士…。俺、もう駄目…かも……』


その一言以降、電話が繋がらない。

なんなのだ!?心配させおって!あの馬鹿タレ目がっっ!!


焦りでイライラしながら、当麻の家に着くととりあえず呼び鈴を鳴らしてみる。
案の定応答はなく、以前貰った合鍵で扉を開けた。


「当麻?」


声をかけてみるが、反応はない。
中に入って、あいつの姿を探す。


「―――!当麻!」


寝室のベッドの脇で、倒れている当麻の姿があった。
駆け寄って抱き起こすと、身体が熱い。

熱があるのか。


「当麻?…当麻!」


頬を軽く叩いてみると、当麻が薄く目を開けた。
顔を除き込んで訊ねる。


「私が判るか?当麻」


「………せ…い、じ……?」


掠れた声で私の名を呟く当麻に、少し安堵する。


「熱があるではないか。一体―――っわ…っ!」


いきなり当麻が抱きついて来たものだから、二人して床に倒れ込む。


「征士、征士…!」


今まで倒れていた奴とは思えない程の力で抱き締められて、私は逃れようともがいた。


「ちょ…!当麻!―――あっ!馬鹿者、どこを触って……っ!」


―――ガツッ!!


………あι
つい、思いきりグーで殴ってしまったι
病人相手にやり過ぎただろうか……。


「―――っってぇι……あれ?俺、何してたんだっけ?」


「……大丈夫か、当麻」


「え?征士?なんでここに居るんだ?」


寝惚けてたのか。
……殴って正解だったな。


「お前が変な電話をかけてくるからだろうが」


「……電話?…………かけたっけ?ι」


〜〜〜〜〜〜っ!
もう一度殴ってもいいだろうか





「―――痛いι征士」


「当たり前だ。……それより、どうしたんだ。かなり熱があるぞ」


ベッドに寝かせて、熱を計った。
かなり、高い。


「病院へは行ったのか?」


「あぁ……夏風邪らしいけど。一昨日くらいから熱あって、関節とか痛くってさ」


「全く…大方、エアコンつけっぱなしで寝たりとかしていたのであろう」


「う…………ι」


図星かっっ


「薬、飲んでるか?玉子粥でも作ってやるから、食べたら飲め」


キッチンへ向かおうとした私の手を、ふいに当麻の熱い手が握った。


「当麻?」


「……来てくれて、ありがとな。すげえ嬉しい」


本当に嬉しそうな笑顔で言われて、自分の顔が赤くなるのが分かった。


「早く治せ。夏休みの間中お前の看病なぞ、ごめんだからな」


そっぽを向いて言ってやったのに、それでも当麻は嬉しそうに頷いた。


全く……こいつのこういう所に、私は弱い。ついつい、ほだされてしまう。


両親との関係がかなり特殊だったらしい当麻は、多分今まで病気の時も独りで治してきたのだと思う。
身体が弱っている時は、心も弱くなるというのに―――


どんな思いで、独りでいたのだろう。


せめて、これからは私が側にいてやりたい、と思う。
痛みや苦しみの中で、当麻が独りで耐えなくてもいいように―――




食事をとって薬を飲んだら落ち着いたのか、当麻は眠ってしまった。
その頃にはすっかり夜も更けていて、布団を出すのも面倒なので私も近くのソファで眠ることにした。


「……おやすみ」


そっと、静かな寝息をたてる当麻に声をかけた。




 *********




翌日、当麻の熱はだいぶ下がっていた。

すっかり調子も戻ったようで、いちいち私になついて来るのが鬱陶しいような嬉しいような、だι



来客があったのは、その日の夕方だった。

当麻の大学の友人、と言うその男は、私を見るなりこう言った。


「………うわぁ。羽柴、誰?この美人」


指を指すな、指を


「手、出すなよ。こいつは俺のだ」


「当麻っっ!ι」


真面目な顔で何を言い出すんだ!


「あ。征士、こいつも惚れてる相手は男だから、大丈夫」


……………
ああ、それなら―――
って、何か違う気もするがι


しかし、私たち以外の当麻の友人に会ったのは初めてで、何だか妙な気分だった。


その友人も、見ていると気持ちの良い奴で……。
当麻が楽しそうなのも、解る気がした。



けれど何だか居たたまれなくて、立ち上がる。
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